子どもの便秘|うんちを我慢する悪循環と正しい対処法

子どもの便秘|うんちを我慢する悪循環と正しい対処法

正直に申し上げますと、私はこの記事を書くまで「便秘には水分と食物繊維」と信じ込んでいました。

コロコロした硬い便が出る。トイレの前で足をもじもじさせて逃げていく。だから水をたくさん飲ませて、野菜を増やして、プルーンを食べさせる——そういう順番で考えていたのです。

ところが、国内外のガイドラインを並べてみて、順番が違うことに気づきました。

子どもの便秘の中心にあるのは、食事の中身ではなく「痛かったから、我慢する」という記憶のほうでした。

この記事では、うんちを出すのを怖がるお子さんの便秘について、何が起きているのか、水分と食物繊維はどこまで効くのか(そして、どこから効かないのか)、実際の治療はどう進むのか、そして見逃してはいけない危険サインまでを、資料同士の食い違いも隠さずに整理していきます。

Photo: Cup of Couple / Pexels

先にお伝えしておきます。これは診断ではなく、情報の整理です。気になる症状は自己判断せず、小児科にご相談ください。


子どもの便秘の約95%は「機能性便秘」です

まず、いちばん安心していただきたい数字から。

MSDマニュアル プロフェッショナル版によれば、こどもの便秘の約95%は「機能性便秘(機能性便秘症)」、つまり原因となる病気がないものです。残りの約5%が器質的疾患で、その最多はヒルシュスプルング病とされています。

とはいえ「病気ではない」は「放っておいてよい」ではありません。機能性便秘こそ、悪循環にはまると長引くのです。

どれくらい多いのでしょうか

数字は、調査によってかなりぶれます。ここは正直に並べておきます。

調査 結果
国際(システマティックレビュー2件) 0〜18歳の便秘の頻度 0.7〜29.6%
日本(学会ガイドラインが引用) 日本人小児の 0.3〜24% に便秘症状
広島市の小学生6,917名 18.5%(男児13.2%/女児24.1%)が週2〜3回未満の排便
横浜市の3〜8歳児3,595人 15〜20% が慢性便秘症の症状

日本トイレ研究所の「小学生の排便に関する記録調査2021」(全国117校・小学1〜6年生16,655名の7日間記録)は、もう少し生活に近い姿を見せてくれます。

  • 7日間毎日排便があった児童は 5,999人(36.0%)。裏を返せば、6割以上は毎日出ていません。
  • 排便日数が「0〜2日」だった児童は 1,336人(8.0%)
  • 総排便記録90,647回のうち、便秘傾向の硬い便(「ころころ」「ごつごつ」)は 9,515回(10.5%)
  • 硬い便が7日間で2回以上出ていた児童は 2,429人(14.6%)。学年が上がるにつれ減る傾向で、便の形状は「ころころ・ごつごつ」が女子に多い傾向でした。

単一の数字で「日本の子どもの◯%が便秘」とは言えません。 定義も調査方法も違うからです。ただ、どの調査を見ても「珍しいこと」ではない、というのは確かです。

診断の物差し ── Rome IV 基準

国際的には Rome 基準が使われます。現行は Rome IV で、発達年齢によって項目が分かれます。

発達年齢4歳未満 — 次のうち2項目以上が1か月以上続く。

  1. 排便が週2回以下
  2. 過度の便のためこみの既往
  3. 痛みを伴う排便、または硬い便の既往
  4. 直腸内に大きな便塊がある
  5. 太くて大きな便の既往

(トイレ習慣を獲得している子では、「トイレ習得後に週1回以上の便失禁」「トイレを詰まらせるような太い便」が加わります)

発達年齢4歳以上 — 次のうち2項目以上が、週1回以上の頻度で最低1か月続く。

  1. トイレでの排便が週2回以下
  2. 週1回以上の便失禁
  3. 便を我慢する姿勢(retentive posturing)や意図的なためこみの既往
  4. 痛みを伴う排便、または硬い便の既往
  5. 直腸内に大きな便塊がある
  6. トイレを詰まらせるような太い便の既往

注目していただきたいのは、排便回数だけで決めていないことです。「痛かった」「我慢していた」「便が太い」といった、回数以外の項目が半分以上を占めています。回数が週3回あっても、痛くて我慢しているなら便秘症なのです。

なお、旧版の Rome III では4歳以上は「2か月以上」が条件でしたが、Rome IV で1か月に短縮され、過敏性腸症候群(IBS)の除外条項も削除されました。ESPGHAN/NASPGHAN も「2か月待つと治療開始が不当に遅れる子がいる」として、早めの介入を支持する立場をとっています。

つまずきやすい「3つの山」

発症しやすい時期は、だいたい決まっています。MSDマニュアル プロフェッショナル版は①離乳食の導入期、②トイレトレーニング期、③入園・入学期の3つを挙げています。エコチル調査千葉ユニットセンター(国立病院機構下志津病院・鈴木修一医師)も、①乳児期の母乳から人工乳への移行、②幼児期のトイレットトレーニング、③就学後の学校での排泄回避、と同じ3つを挙げ、幼児期が発症のピーク、女児にやや多いとしています。

ここで、ひとつ言葉を正確にしておきたいのです。

離乳期に便が硬くなる理由を「腸の動きが鈍るから」と説明されることがありますが、日本の学会ガイドラインの書き方は違います。ガイドラインが記しているのは 「乳幼児期には、離乳に伴い便が固形化してくる」 という、食事内容の変化としての説明です。母乳やミルクという液体中心の食事から固形の離乳食に移れば、便の水分比率は下がります。腸がサボり始めるのではなく、便の材料が変わるのです。

離乳期・トイレトレーニング期・入園入学期という、子どもの便秘が起こりやすい3つの時期を横に並べた図解


「怖いから我慢する」── 悪循環はこうして始まります

ここが、この記事の核心です。

日本の『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン』は、病態生理をこう説明しています。日常的に便が十分に排泄されないと便が直腸にたまりがちになり、直腸壁を常に伸展することで直腸の反応性が低下し、結腸直腸運動が抑制されて便意が鈍くなる。さらに排便時の痛みや出血といった嫌な経験が排便回避につながり、便秘が悪化する——と。

MSDマニュアル家庭版は、もっと平たい言葉で書いています。「自然な便意を催したときに排便しないと、やがて直腸が伸び便がたまります。直腸が伸びてしまうと、便意を感じなくなり、ますます便がたまり硬くなり、こうして便秘が悪化する悪循環が起こります。」

順番にすると、こうなります。

  1. 硬い便・太い便が出て、痛い
  2. 痛みが記憶に残り、次から我慢する
  3. 便が直腸にたまり、水分が抜けてさらに硬くなる
  4. 出すときにもっと痛い
  5. 直腸が伸びきって、便意そのものを感じなくなる

エコチル調査千葉ユニットセンターの解説は、2番目のステップを具体的に描いています。「硬い便や太い便が出るときの痛みが強かったり、トイレットトレーニングでうまくいかず過度に叱られたりすると、排便後の快感よりも排便時の不快感が強く記憶され、便秘につながる」。日本のガイドラインも同じく、痛みや不適切なトイレットトレーニングが「排便を我慢した結果の嫌な体験として記憶される」としています。

つまり、便を我慢する子は、わがままなのではありません。一度覚えてしまった痛みから身を守っているだけなのです。

入園・入学期はここに環境が乗ります。恥ずかしい、時間がない、和式が使えない、個室に入りづらい——そうやって学校で排便を避けることが、そのまま我慢の習慣になっていきます。

硬い便の痛みから我慢が始まり、直腸が伸びて便意を感じなくなるまでの5段階を円環で示した図解

「下痢をしている」ように見えるのに、実は重い便秘です

いちばん誤解されやすいところを書いておきます。

たまった便が塊になった状態を 便塞栓(ふんそくせん/fecal impaction) といいます。ESPGHAN/NASPGHAN 2014ガイドラインでは、腹部の触診で触れる硬い便塊、直腸診で大量の便を含む拡張した直腸、または腹部X線で遠位結腸に過剰な便がある状態、と定義されています。

そして、MSDマニュアル家庭版はこう書いています。「硬くなった便の上に軟らかい便がたまると、便塞栓の周りから漏れ出て小児の下着に付着し、便失禁(遺糞症)になることがあります」。

親からは、下痢に見えます。あるいは「漏らすようになった=しつけの問題」に見えます。

実態は、その逆です。 重い便秘の結果として漏れているのです。エコチル調査千葉ユニットセンターも「硬い便ではなく汁状のものが漏れる」を、早めに医療機関へという黄色信号のひとつに挙げています。

日本の実データもあります。千葉県こども病院小児外科の後方視的検討(日本小児外科学会雑誌 2020;56(7):1068-1073)では、同科を受診した1歳以上の小児慢性機能性便秘症138例中48例(約35%)に便塞栓が認められました。初診時年齢は2歳、発症年齢は1歳前後が多かったと報告されています。

ここで叱ってしまうと、悪循環がもう一段深くなります。漏れているときこそ、叱る場面ではありません。

ラグに座った保護者のひざの上で、小さな本を両手で持っている子どもの手元

Photo: Tara Winstead / Pexels


⚠ 水分を「2倍に増やす」には、根拠がありません

ここが、この記事でいちばん訂正しておきたい点です。私自身が思い込んでいたところでもあります。

国際ガイドラインの結論

ESPGHAN/NASPGHAN 2014ガイドライン(Tabbers MM ほか, JPGN 2014;58:258-274)は、水分について166件の文献を検討したうえで、こう結論しています。

余分な水分摂取が機能性便秘の治療に有効であるという根拠はない(evidence does not support the use of extra fluid intake in the treatment of functional constipation)

紹介されている研究では、2〜12歳の108人を「水分50%増量群」「高浸透圧の補助水分群」「通常水分群」の3群に分けて比較していますが、3週間後の排便回数は3群で同等でした(ただしバイアスリスクの高い研究だと注記されています)。

そして推奨として掲げられているのは、増量ではありません。「便秘の小児には normal fluid intake(普通の水分摂取)を推奨する」 です。

日本のガイドラインも、ほぼ同じ立場です

日本の『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン』も、水分摂取量を増やすことについて 「臨床的な脱水がなければ、水分摂取増加の有効性は明らかでない」 としています。

ただし、条件付きの例外がひとつ記載されています。便失禁がある場合や、食物繊維サプリメントを使用する場合には、1日960〜1920mLの水分摂取が勧められるというものです。これは「便秘の子はみんな増やしましょう」ではなく、特定の状況での話ですので、当てはまるかどうかは医師にご確認ください。

臨床現場の発信も同じ方向です。済生会横浜市東病院の十河剛医師は、日本経済新聞(2019年12月19日)で「食物繊維、乳製品、水分のどれも便秘解消との関連性が認められない」「水分は尿として排出され、便を軟らかくすることにはつながらない」と述べています。エコチル調査千葉ユニットセンターも「水分を多くとることの有効性は確かめられていない」「体操や運動量と便秘の関係もはっきりしない」としています。

では、どう考えればよいのでしょうか

私なりに整理すると、こうなります。

まず必要なのは、増やすことではなく「普通の量をきちんと飲むこと」です。

そのうえで、水分量を意識すべき場面は残ります。発熱・下痢・猛暑などで脱水気味のとき。便失禁があるとき。食物繊維サプリメントを使うとき。これらは医師と相談して決める領域です。

そして、乳児では逆のリスクもあります。水やお茶を無理に飲ませすぎると、母乳・育児用ミルクの摂取量が減って栄養不足につながりかねません。 こども家庭庁(旧厚生労働省)の『授乳・離乳の支援ガイド』も、イオン飲料について「授乳期及び離乳期を通して基本的に摂取の必要はなく、必要な場合は、医師の指示に従うことが大切」とし、脚注でイオン飲料の多量摂取による乳幼児のビタミンB1欠乏が報告されていることに触れています。

「たくさん飲ませれば軟らかくなる」は、残念ながら成り立たないのです。

「水分を2倍に」と「普通の量をきちんと飲む」を左右で対比した水分の考え方の図解


食物繊維は「増やす」べき? 国内外で見解が割れています

水分ほど単純ではありません。ここは両論を並べます。

出典 結論
ESPGHAN/NASPGHAN 2014 5研究を評価し「繊維サプリメントの使用を支持する根拠はない」。推奨は「便秘の小児には normal fiber intake(普通の食物繊維摂取)
日本の学会ガイドライン 有効性の報告もあり、食物繊維を増やすことを試みることが推奨される」。不溶性食物繊維は便量を増やし、水溶性食物繊維は腸内細菌の増殖を促す、とされる
順天堂大学・清水俊明教授(母子健康協会「ふたば」No.87, 2023年) 「繊維の多い食物を多く摂取し、菓子や清涼飲料水の摂取を控える」。野菜は加熱すると効率よく摂取できる
済生会横浜市東病院・十河剛医師(日経 2019年) 食物繊維と便秘解消の関連は認められない。唯一関連があったのは食事の脂肪割合が高いほど便秘になりやすいという点

きれいに割れています。ですので、この記事でも断定はしません。

サプリメントとして「薬のように追加する」ことに強い根拠はない。けれど、日本のガイドラインは食事の工夫として食物繊維を増やすことを試みるよう推奨している。まずは偏りのない普通の食事が基本。 今のところ、言えるのはここまでです。

「プルーンやブロッコリーを積極的に大量に」という書き方は、私はしないことにしました。大量に、が正解だという根拠がないからです。

なお、ESPGHAN/NASPGHAN はプレバイオティクス・プロバイオティクスのルーチン使用も推奨していません。日本のガイドラインは「症例によって有効」という書き方で、全例に有効とは断定していません。ヨーグルトについても、日本の解説では「有効性の報告はあるが、過剰摂取は逆に便秘の原因になることもある」とされています。ここも断定できないところです。

プルーン・りんご果汁は「おすすめ」と書けません

りんご・なし・プルーンの果汁に含まれるソルビトール(糖アルコール)や果糖が腸管内に水分を引き寄せ、便を軟らかくする——という説明は、MSDマニュアル家庭版にも出てきます。同マニュアルは乳児の食習慣の変更として、プルーン・なし・りんごの果汁を1日30〜120mL与える方法を紹介しています。

ただし、MSD自身が「NASPGHANのガイドラインではこれらの果汁が排泄を促進すると述べているが、良質なエビデンスに乏しい」と注記しています。

さらに、日本には行政の明確な方針があります。こども家庭庁(旧厚生労働省)の『授乳・離乳の支援ガイド』(2019年改定版)は、こう書いています。

離乳の開始前の子どもにとって、最適な栄養源は乳汁(母乳又は育児用ミルク)であり、離乳の開始前に果汁やイオン飲料を与えることの栄養学的な意義は認められていない。

一方で、順天堂大学の清水俊明教授の解説(2023年)には「乳児には果汁や糖水で腸内発酵を促進する」という記載もあり、専門家のあいだでも温度差があります。

ですので、乳児(特に離乳開始前)への果汁は、この記事では一般的なおすすめとして書けません。 使うかどうかは小児科でご相談ください、が誠実な書き方だと思います。

月齢・年齢ごとの整理

  • 離乳開始前(〜生後5〜6か月ごろ) — 母乳/育児用ミルクが最適な栄養源。果汁・イオン飲料は基本的に不要です。便秘は自己判断で果汁を足すのではなく、小児科へ。
  • 離乳期(生後5〜6か月ごろ〜) — 便が固形化し、便秘が起こりやすい時期。野菜・いも・果物・豆類など食物繊維を含む食材を、無理のない範囲で離乳食に取り入れます。1歳を過ぎるまで、はちみつは厳禁(乳児ボツリヌス症のリスク/同ガイド)。
  • 幼児期以降 — 菓子・清涼飲料水を控え、脂肪の多い食事に偏らないよう配慮。牛乳・チーズの摂りすぎは便秘傾向になりうるとされています(MSDマニュアル家庭版)。

なお「牛乳をやめれば治る」という話も見かけますが、ESPGHAN/NASPGHAN は機能性便秘の小児に牛乳アレルギー診断のためのルーチン検査を推奨していません。難治性の場合に2〜4週間の牛乳たんぱく除去を試みることが適応となりうる、という位置づけです。自己判断の除去食は必要ありません。

白い背景の紙箱に並べたかぼちゃ・さつまいも・ブロッコリー・しょうが・トマトを真上から写した写真

Photo: Cup of Couple / Pexels


実際に効く治療は、「たまった便を出しきる」ことから始まります

ここが、食事の工夫だけでは動かない理由です。

日本のガイドラインの構成そのものが、順番を示しています。「急性脱出療法(便塞栓の除去)」→「維持療法(生活習慣・食事・薬物療法)」 の順です。治療開始時に便塞栓があるなら、維持療法の前に便塊を除去することが重要とされています。

塊が残ったまま維持療法だけ始めても、漏れが続いて治療がうまくいかないのです。

ステップ1:便塞栓の除去(disimpaction)

ESPGHAN/NASPGHAN 2014は、便塞栓のある小児の第一選択としてポリエチレングリコール(PEG)の経口投与を数日間行うことを推奨しています。PEGが使えない場合は、浣腸を1日1回・数日間、という選択肢が示されています。

日本の実際も見ておきます。千葉県こども病院小児外科の報告では、外来で家庭での経直腸治療(グリセリン浣腸またはビサコジル坐薬)と経口緩下剤を組み合わせ、約2週間後に効果を判定するという方法で、外来治療44例中40例(90.9%)で便塞栓が除去されています。著者らは「十分な説明・教育により、ほとんどの患児が治療を受容でき、約90%で成功した有用な方法」と結論しています。

⚠ ただし、これは医師の指示・管理下で行われたものです。市販の浣腸を保護者の判断で連日使うことを勧める内容ではありません。 浣腸を使うかどうか、量、回数は、必ず医師の指示に従ってください。

ステップ2:維持療法(薬+排便習慣)

日本で小児に使われてきた主な薬は、酸化マグネシウム(塩類下剤・浸透圧性)です。長く広く使われてきました。加えて、ポリエチレングリコール製剤(モビコール配合内用剤)が2018年に日本で発売され、2歳以上で使用できるようになりました。

刺激性下剤(ピコスルファートナトリウム、ビサコジル、センナなど)は、国際ガイドラインでは追加・二次選択の位置づけです。国内の解説でも「便塞栓の再発を防ぐレスキューとして短期投与が原則」とされています。

ESPGHAN/NASPGHAN は維持療法の第一選択として PEG を挙げ、PEGが使えない場合はラクツロースを第一選択としています。水酸化マグネシウム、ミネラルオイル、刺激性下剤は追加または二次選択として考慮しうる、という整理です。

この記事では、あえて具体的な用量を書きません。 体重・年齢・便の状態に応じて医師が決めるものであり、保護者が自己判断で足したり減らしたりする数字ではないからです。

ステップ3:やめどきは「出たとき」ではありません

ここが、いちばん誤解されやすいところかもしれません。

日本のガイドラインでは、維持療法は通常 6〜24か月 を必要とするとされています。6か月以内に規則正しい排便習慣が得られるのは約50%約25%は思春期でも薬物療法の継続が必要、という数字も示されています。エコチル調査千葉ユニットセンターも「およそ半数の子は6か月以内に規則正しい排便習慣が得られ、およそ2年以内に半数の子が薬を中止できる」と同趣旨のことを述べています。

ESPGHAN/NASPGHAN の推奨はこうです。維持療法は最低2か月継続し、便秘症状がすべて1か月以上消失してから中止して、徐々に減量する。そして、トイレトレーニングの発達段階にある子では、トイレトレーニングが完了するまで薬をやめない

「出たからもういい」でやめると、伸びた直腸は元のままです。だから戻ります。 数か月から数年という時間軸を、はじめから見込んでおいたほうがよさそうです。

酸化マグネシウムの安全性について

不安に思われる方が多いところなので、両方書きます。

PMDA(医薬品医療機器総合機構)は2020年8月、「酸化マグネシウム製剤 適正使用に関するお願い —高マグネシウム血症—」を出しています。服用患者、特に高齢者で高マグネシウム血症の報告が多く、腎機能が正常でも、通常用量でも重篤例の報告があるという内容です。高リスクとして、長期服用・腎障害・高齢・便秘症が挙げられています。

一方、日本小児栄養消化器肝臓学会の患者・家族向け文書は、こう述べています。「特別な病気や原因がなく、正しい量を服用している小児では、酸化マグネシウムによって危険なレベルの高マグネシウム血症がおこることは極めてまれ」。

そのうえで、初期症状として頭痛・吐き気、めまい・立ちくらみ、脈の低下、倦怠感・脱力、眠気やぼんやり感を挙げ、出たら医師に相談するよう案内しています。腎機能低下、心疾患、消化管疾患、糖尿病、脱水などの基礎疾患がある場合は特に注意が必要です。

そして、いちばん大事な一文がこれです。

「自己判断で、薬を中断することはなさらないでください」

用量の自己増減も避けるように、とされています。心配だから減らす、が最も避けたい行動なのです。


家でできること ── 足台と、朝食後の5〜10分

薬の話をした直後にこう書くのも変ですが、生活の工夫は薬と同じくらい大事です。ただし、凝ったプログラムは要りません。

ESPGHAN/NASPGHAN 2014が推奨しているのは、デミスティフィケーション(病気の正体をきちんと説明して不安を解くこと)、説明、そしてトイレトレーニングの指導(発達年齢4歳以上)です。逆に、集中的な行動療法プロトコルの追加、バイオフィードバックの追加、代替療法は、いずれも推奨していません。

特別なことより、基本のほうが効くということです。

① 足台を置く

日本経済新聞の記事(2019年)のタイトルは、そのものずばり「子どもの便秘の悩み 水分とるよりトイレの姿勢変える」でした。

便座の足元に台を置いて足を上げ、上体をやや前傾させる。すると骨盤がやや後傾し、直腸と肛門がまっすぐに近くなって便が出やすくなる、という説明です。十河剛医師とエコチル調査千葉ユニットセンターがともに挙げています。

大人用の便座に子どもが座ると、足がぶらぶらしていきめません。踏み台ひとつで解決する話ですので、まずここからでよいと思います。

② 食後、特に朝食後にトイレに座る

食後は腸が活発に動く 胃結腸反射 が起こりやすいタイミングです。この時間に 5〜10分程度トイレに座る習慣 をつけます。

ポイントは、出すことを目的にしないことです。座るのが仕事。出なくても構いません。

③ 生活リズムと、登校前の時間

決まった時間に排便しやすくなるよう生活リズムを整える。そして登校前に排便の時間を確保し、学校のトイレも使えるようにしておく——清水俊明教授はこう勧めています。入園・入学期の「学校で我慢する」を、家庭側の時間割で先回りする発想です。

④ 記録をつける

日本小児栄養消化器肝臓学会は、患者向けに排便日誌を公開しています。記録は診療の場でも役立ちます。「なんとなく出ていない気がする」より、「今週は2日だけ、硬い便が2回」のほうが、医師にとってははるかに有用な情報です。

⑤ 叱らない、褒める

エコチル調査千葉ユニットセンターは、うまくいったら褒めること、失敗を叱ると悪循環を強めることを挙げています。

痛みの記憶から始まった問題を、別の嫌な記憶で上塗りしても、出口には向かいません。

綿棒刺激と浣腸について

よく聞かれる二つに触れておきます。ただし、どちらも学会ガイドラインの正式推奨ではなく、個別の医療機関の解説に基づく話であることを先に申し上げます。

  • 綿棒刺激(綿棒浣腸) — 乳児で家庭で行われることがあり、複数の小児科クリニックの解説では「1日1回まで、授乳・食事の30分後」「1日に何度も繰り返すと直腸粘膜を傷つけうる」とされています。やり方・可否は小児科にご相談ください。
  • 「浣腸はクセになる?」 — 複数の小児科クリニックが「グリセリン浣腸に依存性の成分はなく、クセにはならない」と説明しています。ただし、頻回に浣腸が必要な状態なら経口薬に切り替えるべき、という位置づけです。これも臨床医の解説であり、ガイドラインの明文ではありません。

トイレの踏み台・朝食後に5〜10分すわる・登校前の時間確保・排便日誌という家でできる4つのことをまとめた図解


このサインがあれば、様子見をやめてください

機能性便秘が約95%とはいえ、残り約5%の器質的疾患を見落とすわけにはいきません。ESPGHAN/NASPGHAN 2014が挙げる危険な徴候・症状は、次のとおりです(全項目)。

  • 生後1か月未満の、極めて早期からの便秘
  • 胎便の排泄が48時間を超えた
  • ヒルシュスプルング病の家族歴
  • リボン状の便(細い便)
  • 裂肛がないのに便に血が混じる
  • 体重増加不良(failure to thrive)
  • 発熱
  • 胆汁性嘔吐
  • 甲状腺の異常
  • 高度の腹部膨満
  • 肛門周囲瘻孔
  • 肛門の位置異常
  • 肛門反射・挙睾筋反射の消失
  • 下肢の筋力・筋緊張・反射の低下
  • 背骨(脊椎)の上の毛の房
  • 仙骨部のくぼみ
  • 殿裂の偏位
  • 肛門診察時の極度の恐怖
  • 肛門の瘢痕

日本のガイドラインも、胎便排泄遅滞、成長障害、繰り返す嘔吐、血便、下痢、腹部腫瘤、肛門形態異常などを危険なサインとして挙げています。MSDマニュアル プロフェッショナル版は、胎便排泄の遅延(生後24〜48時間を超える)、筋緊張低下と吸啜不良(乳児ボツリヌス症)、歩行異常や深部腱反射の異常を危険信号としています。

ヒルシュスプルング病について

器質的疾患で最も多いのがこの病気です。日本小児外科学会の解説によれば、腸の動きを制御する神経節細胞が生まれつき無いために腸の動きが悪く、腸閉塞や重い便秘症をおこす病気で、胎齢5〜12週ごろの神経節細胞の分布過程の異常が原因とされています。

胎便排泄遅延と腹部膨満で発症するのが典型です。無神経節腸管が短いタイプ(短域型)では、慢性的な便秘症状として経過する場合もあります。無神経節腸管が長い症例では、放置すると腸炎から敗血症に至り死亡することもある、と記されています。全結腸型または小腸型は指定難病291です。

診断は注腸造影検査、肛門内圧検査、直腸粘膜吸引生検の組み合わせで進められます。ESPGHAN/NASPGHAN は直腸生検を診断のゴールドスタンダードとしています。

ほかに、肛門直腸奇形、嚢胞性線維症、甲状腺機能低下症などの代謝疾患、二分脊椎・係留脊髄といった脊髄異常も鑑別に挙がります。

「早めに受診」の黄色信号

エコチル調査千葉ユニットセンターが挙げる、早めに医療機関へというサインです。

  • 硬い便ではなく、汁状のものが漏れる
  • 排便時に強い痛みを訴える
  • 肛門から出血する
  • 排便時に足を交叉させて我慢する姿勢をとる

これらに加えて、上の危険サインがあるとき、便秘が続くとき、家庭での工夫で改善しないときは小児科へ。

なお、検査については「やりすぎない」という方向も示されています。ESPGHAN/NASPGHAN は、機能性便秘の診断のための腹部X線のルーチン使用は適応でない、危険症状がなければ甲状腺機能低下症・セリアック病・高カルシウム血症のルーチン検査は推奨しない、神経学的異常のない難治性便秘で脊髄MRIのルーチン使用は推奨しない、としています。受診=いきなり大がかりな検査、ではありません。

夜間・休日に迷ったとき

判断に迷うときは、こども医療でんわ相談 #8000 があります。こども家庭庁(旧厚生労働省)の子ども医療電話相談事業で、保護者が休日・夜間の子どもの症状にどう対処すべきか、受診すべきかを小児科医師・看護師に電話で相談できる仕組みです。平成16年に始まり、平成22年から全国47都道府県で実施されています。

受付時間は都道府県によって異なります。 お住まいの都道府県の案内をご確認ください。また、緊急性が高いと感じるときは #8000 ではなく、救急要請や救急外来の受診をご検討ください。

早めに受診したいサインと危険なサインをチェックボックスで並べた受診の目安の図解

関連記事 – 離乳食開始後の赤ちゃんの便秘対策


この記事の根拠について、正直にお伝えします

最後に、誠実に書いておきたいことがあります。

日本の『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン』は、2025年10月に2025年版が発行されています(Mindsガイドラインライブラリ登録、作成代表者:信州大学医学部保健学科 中山佳子教授)。2013年版の発行後に出た新しいエビデンスを反映し、乳児・重症心身障害児・神経発達症児の章が新設され、2018年のポリエチレングリコール製剤の国内発売も反映されている、とされています。

ただし、2025年版の全文は有料の書籍・電子版でのみ公開されており、今回の調査では本文を直接確認できていません。 この記事で「日本の学会ガイドラインでは〜」として紹介した内容は、公開されている2013年版のPDFと、医療機関による二次的な要約に基づいています。

ですので、この記事では逐語的な引用を避け、「〜とされている」というレベルにとどめました。 数値や表現が2025年版で更新されている可能性があります。厳密な確認が必要な場合は、書籍版か、かかりつけの小児科でご確認ください。

加えて、日本のガイドライン本体のPDFはテキスト抽出ができない形式だったため、一部は検索結果に現れた本文断片に依拠しています。母乳栄養児の排便回数が数日に1回でも生理的とされる点も、学会ガイドライン上の数値ではなく複数の小児科クリニックの解説に基づくため、この記事では断定を避け、便の硬さと機嫌・体重で判断するという書き方にとどめました。

書けなかったこともあります。日本の子どもの便秘の正確な有病率、果汁が乳児の便秘に有効かどうか、綿棒刺激の適切な頻度。どれも、断定できるだけの根拠が見つかりませんでした。


資料を全部並べ終えて、私の頭の中の順番は、はじめとすっかり入れ替わっていました。

水を増やすことでも、繊維を足すことでもなく、「痛くなかった」という経験を一度つくり直すこと。 それが、この便秘のいちばん奥にあるものでした。

たまった便を出しきって、しばらく痛くない排便が続いて、ようやく子どもはトイレを怖がらなくなる。そこまで数か月から数年かかることもある、とガイドラインは言っています。時間がかかると知っておくだけでも、途中で薬をやめてしまう失敗は減らせるはずです。

足台をひとつ置く。朝食のあと、5分だけ座ってみる。出なくても褒める。

地味ですが、この三つから始めてよいと思います。急がなくてよいのです。この問題は、急かすことでいちばんこじれてきたものですから。

青い縞模様の皿にのせた、ブルーベリーとりんごをトッピングしたトーストの朝食を真上から写した写真

Photo: Agustina R Street / Pexels

この記事は一般的な情報の整理であり、診断・治療の代わりにはなりません。薬の使用・中止・増減はすべて医師の指示に従い、気になる症状は自己判断せず、かかりつけの小児科にご相談ください。

参考資料:日本小児栄養消化器肝臓学会・日本小児消化管機能研究会『小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン』、Mindsガイドラインライブラリ、ESPGHAN/NASPGHAN(Tabbers MM ほか, JPGN 2014;58:258-274)、MSDマニュアル(プロフェッショナル版・家庭版)、Rome IV/StatPearls、日本小児外科学会雑誌 2020;56(7):1068-1073(千葉県こども病院小児外科)、PMDA、こども家庭庁『授乳・離乳の支援ガイド』(2019年改定版)・子ども医療電話相談事業(#8000)、エコチル調査千葉ユニットセンター(鈴木修一医師)、日本小児外科学会、難病情報センター、日本トイレ研究所「小学生の排便に関する記録調査2021」、日本経済新聞 2019年12月19日(済生会横浜市東病院・十河剛医師)、母子健康協会「ふたば」No.87(順天堂大学・清水俊明教授)ほか(2026年8月時点の整理)

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