PM2.5の日の換気 — 窓を閉めきった部屋にたまるもの

PM2.5の日の換気 — 窓を閉めきった部屋にたまるもの

正直に言うと、去年の春、私は黄砂の予報を見て一日じゅう窓を閉めきっていました。

外の空気が悪いなら、閉めておけばいい。そう思っていたんです。

ところが夕方になって、何となく頭が重くなってきました。それで「窓 閉めきる 室内 空気」と検索して、こういう説明にたどり着いたわけです。「閉めきると、ガスコンロの燃焼で発生するラドンが室内にたまり続ける」。

放射性物質の名前が出てきて、正直ぞっとしました。

けれど調べていくうちに、話はまったく別のところへ着地しました。結論から言うと、この説明は誤りです。 ラドンはガスコンロから出ません。そして日本の屋内ラドン濃度は、世界平均の半分以下でした。

この記事では、その誤解をまず正したうえで、日本の住宅で本当に効く室内空気質の考え方 — 24時間換気、PM2.5・黄砂の高濃度日の立ち回り、調理中のレンジフード、そして開放型暖房器具の一酸化炭素まで、公的資料で確認できたことだけを整理します。

Photo: Ekam Juneja / Pexels

ラドン(土壌・岩盤から床の亀裂を通って室内へ)とガスコンロの燃焼生成物(NO2・CO・30〜50nmの超微粒子・VOC)を左右に並べた対比図


「ガスコンロからラドンが出る」は誤りです — 混同すると対策を間違えます

まずここを片づけないと、この先の話が全部ずれてしまいます。

ラドンは、燃焼で生まれる気体ではありません。

WHOはラドンを「無臭・無色・無味の放射性気体」とし、「すべての岩石と土壌に含まれるウランの自然な放射性崩壊に由来する」と説明しています。日本原子力研究開発機構(JAEA)のATOMICAも、ラドンは原始放射性核種であるウラン238とトリウム232の崩壊生成物で、地殻中に存在するものだとしています。環境省の解説も「地下に広く存在するラジウムがアルファ壊変することにより発生」し、「化学的に安定な気体であることから、地中から出て家屋の中にも入り込み」ます、と書いています。

侵入経路もはっきりしています。WHOが挙げているのは、床の亀裂、床と壁の接合部、配管やケーブルまわりの隙間、中空ブロック壁の微細な空隙。つまり足元からです。一部は建材からも放出されます。

一方で、ガスコンロが実際に出しているものは、まったく別の顔ぶれでした。

  • 二酸化窒素(NO2) — US EPAは室内NO2の発生源として「排気されない燃焼器具、たとえばガスコンロ」「石油ストーブ」を挙げています
  • 一酸化炭素(CO) — CDCはCOを含む燃焼ガスの発生源として、ガスレンジを明示しています
  • 微小粒子・超微粒子 — 鍵直樹氏(東京工業大学、室内環境 2020)は、ガスコンロやトースターオーブンの調理行為から粒径30〜50nmの超微粒子が発生することを報告しています
  • ホルムアルデヒド・ベンゼン等のVOC — 東賢一氏(近畿大学医学部、室内環境 2022)の総説は、燃焼由来の室内空気汚染物質としてPM10・PM2.5・一酸化炭素・窒素酸化物・二酸化硫黄・多環芳香族炭化水素・VOCを挙げています

並べて見ると、こうなります。

ラドン ガスコンロの燃焼生成物
正体 天然の放射性気体(無色・無臭・無味) NO2、CO、微小粒子、ホルムアルデヒド等
起源 土壌・岩盤中のウラン238→ラジウム→ラドン。一部は建材から 燃料(都市ガス・LPガス・灯油)の燃焼
侵入・発生 床の亀裂、床と壁の接合部、配管・ケーブルまわりの隙間 調理・暖房の使用中に室内で直接発生
主な健康影響 長期曝露による肺がんリスク上昇(急性症状なし) 気道刺激、呼吸器感染リスク、CO中毒(急性・致死的)
対策 床下換気、ラドン排出システム、床・壁の気密化 屋外へ排気するレンジフードの使用、換気、機器の適切な使用

発生源が違えば、対策も違います。 ここを混同すると、床の隙間の問題をレンジフードで解決しようとしたり、調理の煙を「放射性物質」だと思い込んだりすることになります。実際、私がやりかけていたのは後者でした。

それでも、閉めきった家の話には救える部分があります

誤解を正したうえで、もうひとつ書いておきたいことがあります。

締めきった家がラドン濃度を上げるという直感は、機序としては成り立ちます。

ただし「生む」のではなく「薄まらなくなる」という意味においてです。ATOMICAは、ラドンによる被ばく線量が「居住している土地の土の中に含まれているウランやトリウムの濃度、家屋の建材や室内の換気回数などによって、その線量は大きく変動する」としています。換気回数が効くわけですから、閉めきれば土壌から入ってきた分の希釈が減ります。

問題意識そのものは、間違っていなかったんですね。間違っていたのは、ガスコンロを犯人にした部分だけでした。

白い塗り壁に走る細かなひび割れのクローズアップ

Photo: Marcu Ioachim / Pexels


日本の屋内ラドンは世界平均の半分以下です

では、日本の住宅でラドンはどれくらい心配すべきものなのか。ここが、海外の記事をそのまま読んでいると見落とすところでした。

数字から先に書きます。

  • 環境省: 屋内ラドン濃度の日本の平均値は 16 Bq/m³、世界平均は 39 Bq/m³
  • 全国調査(Suzuki G. ら, J Radiat Res 2010;51(6):683-9): 2007〜2010年に47都道府県で 3,461戸 を測定(成功率88.7%)。季節変動を補正した 算術平均14.3 Bq/m³(SD 14.7)、幾何平均10.8(幾何標準偏差2.0)
  • 同調査の結論: WHO参考レベルの100 Bq/m³を超える住宅は、およそ0.1%と推定される

つまり、1,000戸に1戸あるかどうかという水準です。

屋内ラドン濃度を比べた横棒グラフ。日本の平均14.3〜16、世界平均39、WHO参考レベル100 Bq/m³

WHOのファクトシートが示している内容も、あわせて押さえておきます。

  • ラドンは、国ごとの平均濃度と喫煙率に応じて、その国の全肺がんの3〜14% に関与している
  • 長期平均濃度が 100 Bq/m³上がるごとに、肺がんリスクは約16%上昇 する
  • 喫煙者のラドンによるリスクは、非喫煙者の約25倍 と推定されている
  • 参考レベルは年平均 100 Bq/m³。国ごとの事情でそこまで下げられない場合でも 300 Bq/m³を超えないこと

いちばん大事なのは3つめだと思います。ラドンは単独の脅威というより、喫煙と組み合わさったときに危険が跳ね上がるものなんですね。

参考までに、職場の測定値もあります。Oikawa S. らの調査(J Environ Radioact 2006;87(3):239-45)は、2000〜2003年に事務所・工場・学校・病院705地点を測定し、算術平均 20.8 Bq/m³(範囲1.4〜182)、屋内職場のラドンによる公衆の実効線量を年 約0.42〜0.52 mSv と推定しています。

なお、日本の一般住宅の屋内ラドンについて、法令上の規制値や公的な指針値があるかどうかは、今回の調査では確認できませんでした。 「日本には基準がある」とも「ない」とも、私はここで書けません。環境省のページも国際機関の推奨(100〜300 Bq/m³を超える場合は対策を)を紹介するにとどめています。

欧米、特にヨーロッパでラドン対策が語られるのは、石造りで地下室のある住宅が多く、土壌からのラドンが屋内にたまりやすいからです。環境省も「ヨーロッパのような石造りの家で生活する地域では、屋内ラドン濃度が高くなり」と説明しています。住宅の様式が違えば、前提も変わります。

海外で話題のラドン対策を、日本の住宅にそのまま持ち込む必要性は高くありません。 恐怖を先に置かないこと。それが、この記事でいちばん伝えたかったことのひとつです。

ラドンについての具体的な道筋は、この記事の最後に「測定と低減」として別に書きました。急性症状が出るものではないので、体調の話とは分けたほうが混乱しないからです。


日本には「24時間換気」という大前提があります

ここからが本題です。日本で室内空気質を語るとき、外せない前提がひとつあります。

窓を閉めても、換気はゼロになりません。

ミント色の空を背に立つ、淡いピンクの集合住宅のファサードとバルコニー

Photo: Malanca Stanislav / Pexels

2003年(平成15年)7月1日に施行された建築基準法のシックハウス対策により、居室を有する全ての建築物に機械換気設備の設置が原則として義務づけられました。国土交通省は「内装の仕上げ等にホルムアルデヒド発散建築材料を使用しない場合であっても、家具等からもホルムアルデヒドが発散されるため、居室を有する全ての建築物に機械換気設備の設置が原則義務付けられています」と説明しています。

必要な換気量も、条文で数値が決まっています。

建築基準法施行令第20条の8は、必要有効換気量を Vr=nAh(Vr=必要有効換気量 m³/h、A=居室の床面積 m²、h=天井の高さ m)と定め、係数 n を「住宅等の居室にあつては〇・五、その他の居室にあつては〇・三」としています。

つまり、住宅の居室は換気回数0.5回/h — 1時間に部屋の空気の半分を入れ替えるのが法定の設計前提です。

住宅の24時間換気の断面図。壁の給気口から入った外気が居室を横切り、浴室・トイレの排気ファンへ抜ける流れ

同じ2003年の改正では、ほかにも次のことが決まりました。

  • クロルピリホスを添加した建築材料は、居室を有する建築物への使用が禁止(施行令第20条の6)
  • 内装仕上げに使うホルムアルデヒド発散建築材料は、居室の種類と換気回数に応じて面積制限を受ける(同第20条の7)。F☆☆☆☆等級は規制対象外建築材料で制限なし
  • 天井裏等も、下地材をホルムアルデヒド発散の少ない材料にするか、機械換気設備で換気できる構造にする必要がある

ただし、すべての家にあるわけではありません

ここは正直に書いておきます。

適用されるのは 2003年7月1日以降に着工された建築物(同年6月以前に確認済証の交付を受けたものを含む)です。それより前に着工された住宅には、24時間換気の義務がありません。

築年数の古い家にお住まいなら、「窓を閉めても機械換気が動いている」という前提が成立しない可能性があります。この記事の以降の話は、まずご自宅に24時間換気があるかどうかを確認してから読んでいただくのが正確です。

給気口を塞ぐと、この前提が崩れます

もうひとつ。法律が求めているのは「0.5回/h の有効換気量が確保されること」であって、設備が壁についていることではありません。

給気口を塞いだり、24時間換気のスイッチを切ったりすれば、この設計前提はそのまま成立しなくなります。 これは統計ではなく、法令の構造から言えることです。

白い外壁に取り付けられた緑色のガラリ(通気口)と、斜めに落ちる日差しの影

Photo: Jan van der Wolf / Pexels

寒い、音がする、虫が入る。塞がれる理由はいろいろあると聞きます。どれくらいの家庭がそうしているのかという実態統計は、今回の調査では確認できませんでした。だから割合は書きません。

ただ、外の空気を気にして窓を閉めている人ほど、給気口も塞いでいないか — そこは一度見てみる価値があると思うんですね。


PM2.5・黄砂の高濃度日は「窓を開けない」が公的指針です

ここが、ネット上の一般論と日本の公的指針が正面からぶつかるところです。

「大気の状態が悪くても、1日最低1〜2回の軽い換気は必須」。よく見かける言い方ですが、日本の指針は、高濃度の日についてはむしろ逆のことを言っています。

環境省がPM2.5の注意喚起時に推奨している行動は、次の3つです。

  1. 「不要不急の外出や屋外での長時間の激しい運動をできるだけ減らす」
  2. 「外出する場合は、PM2.5に対応するマスクを着用する」(帰宅後の手洗い・うがいも)
  3. 「屋内では、換気や窓の開閉は最小限にして可能な限り外気を遮断し、部屋のサイズに適したPM2.5対応の空気清浄機を運転する」

黄砂についても、環境省のパンフレットが同趣旨です。「換気は大事ですが、高濃度の黄砂が飛来しているときには、窓の開閉や換気を必要最小限にすることにより、居住者の吸入量を減らすことが期待できます」。

数値の目安はこうなっています。

項目
PM2.5の環境基準 1年平均値 15µg/m³以下 かつ 1日平均値 35µg/m³以下
注意喚起の暫定的な指針となる値 日平均値 70µg/m³

PM2.5の環境基準(年平均15・日平均35µg/m³)と暫定指針値(日平均70µg/m³)の数値カードと、注意喚起時に推奨される3つの行動を並べた図解

「窓を開けない」ことが「無換気」を意味しないのが、日本の住まいの強みです。 2003年以降に着工された住宅なら、機械換気が0.5回/hで回り続けている前提がありますから。

だから正確な言い方はこうなります。高濃度の日は窓開けを控えて24時間換気に任せる。においがこもる、人が多くて空気が重い、といった室内側の兆候があるときだけ、短時間の窓開けで対応する。

黄砂とPM2.5は、同じものではありません

ついでに整理しておきます。

黄砂は、タクラマカン砂漠やゴビ砂漠、黄土高原などの乾燥・半乾燥地域で、砂塵嵐によって数千メートルの高度まで巻き上げられた土壌・鉱物粒子が、偏西風に乗って飛来する現象です。石英や長石などの造岩鉱物、雲母やカオリナイトなどの粘土鉱物を多く含みます。

日本に到達する時点での粒径のピークは、直径4µm付近。 PM2.5(粒径2.5µm以下)より粗い粒子が主体です。小さい粒径のものはPM2.5に含まれますが、「黄砂=PM2.5」ではありません。

時期には季節性があります。2月頃から増加し始め、3月〜5月にピーク。 私が窓を閉めきっていたのも、ちょうどその季節でした。

健康影響として環境省のパンフレットが挙げているのは、次のようなものです。

  • アレルギー症状 — 眼・鼻・皮膚のアレルギー症状との関連。目のかゆみ、結膜炎、鼻水、くしゃみ
  • 呼吸器疾患 — 小児の受診数増加。気管支喘息・COPDの患者で症状悪化に伴う入院・受診数の増加。喘息入院では小児と高齢者への影響が大きい。成人の非喘息の方でも、濃度が高いほど咳が出るという報告
  • 循環器疾患 — 飛来と循環器疾患による死亡との関連。高齢者、糖尿病や慢性腎臓病等の既往歴がある方はリスクが高い

マスクについては、一般用マスク(不織布等)でもある程度の吸入予防効果があり、医療用・産業用は捕集効率が高いものの息苦しく長時間には向かない、顔に合ったサイズを密着させて着用する、とされています。

「窓を5cm・5分以内」という数字は、根拠を確認できませんでした

これも書いておかなければいけません。

「PM2.5の少ない日中に窓を5cmほどだけ開け、対角換気を5分以内で手早く」。具体的で、いかにも実践しやすい方法です。

ただ、この「5cm」「5分以内」という数値の出典を、政府・国際機関の資料から確認することはできませんでした。 よく紹介される方法ではありますが、公的な根拠となる数値は見つからなかった、というのが正直なところです。

日本の公的資料で数値化されているのは、開口幅や時間ではありません。換気回数(住宅0.5回/h)と二酸化炭素濃度(1,000ppm/1,500ppm) のほうです。語るなら、こちらの基準で語るべきだと思います。

「対角に開けて、空気の入口と出口をつくる」という考え方自体は合理的です。ただ、これも定性的な説明にとどめておきます。対応する数値規定は確認できませんでしたから。

そして「PM2.5の少ない日中」というのも、自明ではありません。 黄砂には季節性がありますし、日内の濃度は気象条件に左右されます。時間帯の思い込みで開けるのではなく、環境省・自治体・気象庁が公開している実測値(速報値)を確認してから開けるのが、正しい順番です。


閉めきった日にこそ、室内最大級の発生源が動きます

ここが、この記事で私がいちばん納得した部分でした。

外のPM2.5を警戒して窓を閉めきっている、まさにその日に。夕方になれば、台所で調理が始まります。

US EPAが室内NO2対策の筆頭に挙げているのは、はっきりした一文です。

「ガスコンロの上に、屋外へ排気する換気扇を設置し、使うこと」

NO2の健康影響についてEPAは、主に刺激物として作用し、眼・鼻・のど・気道の粘膜に影響するとしています。長期では急性または慢性の気管支炎、低濃度でもとくに幼い子どもで呼吸器感染のリスクが上がると指摘されています。

粒子のほうはどうか。鍵直樹氏の報告(室内環境 2020)によれば、建物内の質量濃度は粒径0.2〜0.3µmと4µmにピークを持つ二峰型で、調理行為ではガスコンロやトースターオーブンから30〜50nmの超微粒子が発生します。同氏は、建築物衛生法の浮遊粉じん基準0.15 mg/m³はあくまでビル(特定建築物)の基準であり、住宅には粒子状物質の規制がないことも指摘しています。

白いキッチンの天井付けレンジフードと、その下のIHクッキングヒーター

Photo: Max Vakhtbovych / Pexels

レンジフードは必須です。ただし万能ではありません

ここは単純化したくなるところですが、実測データはもう少し込み入っていました。

Kang K. らの研究(Sci Total Environ 2019;668:56-66)は、住宅30戸で調理中の粒子を実測したものです。この研究は韓国で行われたものである点を、先に明記しておきます。 日本国内の同等の定量研究は、今回の調査では確認できませんでした。

分かったことは次のとおりです。

  • 調理中にPM2.5・PM10が室内基準を超過した
  • 粒子の減衰速度定数は 1.27〜21.83 h⁻¹、排出速度は 0.39〜20.45 mg/min
  • 魚焼き・肉焼き・卵焼きなど4種を比較すると、魚を焼いたときの濃度が最大
  • レンジフードだけでは、調理中の粒子濃度を十分に下げられなかった
  • 一方、自然換気(窓開け)とレンジフードを同時に使うと粒子は急速に除去され、減衰速度定数は約9 h⁻¹ になった
  • 室内粒子濃度にもっとも大きく影響したのは、調理方法の選択だった

「レンジフードを回せば大丈夫」ではなかったわけです。回すのは必須。でもそれだけでは足りない。 正確に書くと、そうなります。

だから、私の中での優先順位はこう変わりました。外のPM2.5を気にして窓を閉めきる日でも、調理の前から調理後までレンジフードを必ず回し、可能なら短時間の給気を併用する。 外気の数十µg/m³を気にしながら、室内で発生源を野放しにするのは、順番が逆でしたから。

ちなみにWHOは、家庭内空気汚染に起因する死亡を 2021年のデータで年間約290万人 と推計しています(5歳未満の死亡は30万9千人超、DALYsは9,500万年)。内訳は虚血性心疾患32%、脳卒中23%、下気道感染21%、COPD 19%。年次によって推計値が変わるため、年を添えて読むのがよい数字です。


開放型の暖房器具だけは、外の空気を理由に換気をためらわないでください

ここまで「高濃度の日は窓を閉めていい」と書いてきましたが、例外が一つだけあります。

石油ストーブやガスファンヒーターのような、排気を屋外に出さない 開放型の燃焼器具 を使っているときです。

⚠ 一酸化炭素(CO)中毒の警告

一酸化炭素は 無色・無臭 で、気づかないうちに命を奪います(CDC: “an odorless, colorless gas that kills without warning”)。開放型の暖房器具を使うときは、外の空気の状態を理由に換気をためらわないでください。 PM2.5や黄砂より、CO中毒のほうが即座に危険です。

  • 屋内・車庫・テント内で 炭(練炭・バーベキュー用炭)を燃やさない
  • 発電機を屋内や車庫で使わない(窓やドアを開けていても不可。窓・ドア・換気口から約6m以上離す)
  • 燃焼器具は 年1回の点検 を受ける
  • 一酸化炭素警報器(COアラーム)の設置 を検討する
  • 乳幼児・高齢者・心疾患・貧血・呼吸器疾患のある方は重症化しやすい

CDCが挙げるCO中毒の症状は、頭痛、めまい、脱力、吐き気、嘔吐、胸痛、錯乱です。やっかいなのは、これがインフルエンザ様の症状と紛らわしいこと。「風邪かな」で済ませてしまう構図が、いちばん怖いところだと思います。

US EPAも、室内NO2の発生源として「排気されない燃焼器具」「石油ストーブ」を明示したうえで、「開放型を買い替えるときは、排気式の暖房機を検討すること」と助言しています。

なお、日本国内の開放型暖房器具によるCO中毒の年間発生件数や死亡数については、今回の調査で一次資料を確認できませんでした。 だから件数は書きません。ただ、件数を知らなくても、上の行動は変わらないと思うんですね。


空気清浄機は、換気の代わりにはなりません

高濃度の日に「窓を閉めて空気清浄機を運転する」のは、環境省の指針どおりの正しい行動です。ただし、できることとできないことがあります。

US EPAの記述に沿って整理します。

できること — 「携帯型空気清浄機やHVACフィルターの多くは、空気中の粒子をろ過できる」。PM2.5や黄砂の粒子には効きます。

できないこと — ガス状物質です。EPAは「ガスを除去するには、活性炭フィルターやガス除去用に設計されたフィルターを選ぶこと」とし、しかも活性炭は「フィルターに大量の材料が使われていることが条件」「厚いほどよい」としています。吸着材の量が効果を決めるわけです。

つまり、HEPAのような粒子用フィルターでは、二酸化炭素・一酸化炭素・VOCといったガスは取れません。

二酸化炭素については、EPAの該当ページに除去の記載そのものがありません。CO2は在室者の呼気で増え続けますから、外気を入れる(換気する)以外に下げる手段は、家庭にはないと理解しておくのが実務的です。

そしてEPAは、もっとはっきり書いています。

「ろ過は、汚染物質を管理し換気する必要の代わりにはならない」
「室内の空気を改善するもっとも効果的な方法は、汚染物質の発生源を減らす・取り除くことと、きれいな外気で換気することである」

空気清浄機は「すべての汚染物質を除去できるわけではない」とも明記されています。

選び方・使い方についても、書ける範囲で。

  • EPAは部屋の広さに対して CADR で選ぶよう指示しています。「CADRが高いほど、多くの粒子を除去でき、より広い面積に対応できる」
  • 日本の製品表示でおなじみの「適用床面積(畳数)」の規格値については、今回の調査で一次資料を確認できませんでした。規格番号や畳数換算の細かい数値は書きません。 製品表示の適用床面積を、実際の部屋より大きめに見て選ぶ — その程度の一般論にとどめます
  • 環境省も「黄砂及びPM2.5に対する空気清浄機の除去効果は、フィルターの有無や性能など機種によって異なると考えられるため、製品表示等を確認しましょう」「また、定期的にフィルターの清掃・交換を行う必要があります」としています

買って置いただけでは、性能は出ません。 フィルターの手入れまで含めて、はじめて使えている状態になります。


締めきりでたまるのは、CO2とVOCです — ただし「頭痛の原因」とは断定できません

冒頭の説明のうち、ラドン以外の部分 — 「二酸化炭素と揮発性有機化合物が室内にたまり続ける」 — は、換気が不足すれば成立します。CO2は在室者の呼気から、VOCは建材・家具・接着剤・塗料・油性ペン・床ワックス等から放散されます。

問題は、その次に続く「だから頭痛や慢性疲労になる」のほうです。

ここは、はっきりさせておく必要があります。

Du B, Tandoc MC, Mack ML, Siegel JA の批判的レビュー『Indoor CO2 concentrations and cognitive function: A critical review』(Indoor Air, 2020;30(6):1067-1082)は、37の実験研究を精査したうえで、「現在のCO2の認知への影響に関する知見は一貫していない」と明言しています。

強度と一貫性の基準を満たした研究群で分かったのは、次の2点でした。

  • 純粋なCO2の添加が影響したのは、戦略的経営シミュレーション(SMS)で測られる 高次の意思決定課題に限られた
  • 換気量を下げて室内汚染物質全体が蓄積した場合 は、「さまざまな機能の速度は落ちるが、正確さは変わらない」

交絡要因として、認知テスト法・研究デザイン・被験者差・曝露量の不確かさが挙げられています。

ですから、書けるのはここまでです。「換気不足の空間では作業速度の低下を示す研究がある。一方、CO2単独の影響については研究結果が一致していない。」 「CO2が上がる=頭痛・慢性疲労」と断定してはいけません。

私の「夕方の頭の重さ」も、原因を一つに決められる種類のものではなかった、ということですね。

日本の基準値は「換気状態の指標」です(古い数値に注意)

CO2について日本で使われている数値を、現行の条文で確認しました。

建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管法)施行令第2条の建築物環境衛生管理基準は、次のとおりです。

項目 基準
浮遊粉じんの量 空気1m³につき 0.15 mg以下
一酸化炭素の含有率 百万分の六以下(6 ppm以下)
二酸化炭素の含有率 百万分の千以下(1,000 ppm以下)
温度 18℃以上28℃以下
相対湿度 40%以上70%以下
気流 0.5 m/秒以下
ホルムアルデヒドの量 空気1m³につき 0.1 mg以下(=0.08 ppm

ここで一つ注意があります。 解説記事や行政の古い解説ページには、改正前の「一酸化炭素10ppm以下」「温度17℃以上」と書かれた版が残っていることがあります。現行の政令本文は、一酸化炭素6ppm以下・温度18℃以上(令和4年4月1日施行の改正)です。数字を引くときは、こちらを使ってください。

もう一つ。この基準は延べ面積3,000m²以上の特定建築物等(学校は8,000m²以上)に適用されるもので、一般住宅に直接適用される法定基準ではありません。 住宅で使うなら「ビルの管理基準を目安として借りる」という位置づけになります。

学校のほうは、CO2の基準が少し緩やかです。学校環境衛生基準では「換気の基準として、二酸化炭素は1,500ppm以下であることが望ましい」とされています。

どちらの数値も、「これを超えたら病気になる」という線ではありません。換気ができているかどうかを判断するための管理指標です。そう理解しておくと、数字に振り回されずに済みます。

シックハウス症候群と、2026年4月に変わった基準

室内空気質の基準は、いまも更新され続けています。

令和8年(2026年)2月27日に告示され、4月1日に施行された学校環境衛生基準の改正では、揮発性有機化合物の一つである エチルベンゼンの基準値が3,800 µg/m³(0.88ppm)から370 µg/m³(0.085ppm)へ引き下げられました。 根拠は、令和7年(2025年)1月17日付の厚生労働省医薬局長通知で室内濃度指針値が同様に改定されたことです。あわせて、測定法から「容器採取法」が削除されています。

現行の学校環境衛生基準は、次のとおりです。

検査項目 基準
換気(二酸化炭素) 1,500ppm以下であることが望ましい
温度 18℃以上28℃以下であることが望ましい
相対湿度 30%以上80%以下であることが望ましい
浮遊粉じん 0.10 mg/m³以下
気流 0.5 m/秒以下であることが望ましい
一酸化炭素 6 ppm以下
二酸化窒素 0.06 ppm以下であることが望ましい
ホルムアルデヒド 100 µg/m³以下
トルエン 260 µg/m³以下
キシレン 200 µg/m³以下
パラジクロロベンゼン 240 µg/m³以下
エチルベンゼン 370 µg/m³以下(令和8年改正で3,800から引き下げ)
スチレン 220 µg/m³以下

文部科学省の通知はエチルベンゼンについて、「接着剤や塗料の溶剤及び希釈材として用いられる揮発性有機化合物の一つであり、不快な刺激や臭気を感じ、状況によってシックハウス症候群の発生要因になるとされている」と説明しています。基準を超えたときの措置として挙げられているのは、「換気の励行等」 と、発生原因の究明・発生抑制です。

ホルムアルデヒドの指針値は 0.08 ppm(=0.1 mg/m³=100 µg/m³)。ビル管法でも学校環境衛生基準でも同じ値です。発生源は建材や接着剤に加えて家具等。学校の例では「机、いす、棚などの備品、学習に関わる塗料、油性ペン、接着剤、ホワイトボードマーカー、床ワックス」が挙げられています。

新しい家具を入れた、リフォームをした。そういうタイミングで空気がにおうと感じたら、やるべきことは空気清浄機を強にすることではなく、換気と発生源の管理だということです。


受診の目安(3段階)

ここだけ切り取って読めるように、独立してまとめます。

🚑 すぐに119/救急(ためらわない)

一酸化炭素(CO)中毒の疑い — 次のいずれかに当てはまるとき。

  • 頭痛・めまい・吐き気・嘔吐・脱力・胸痛・錯乱が、同じ部屋にいる複数の人に同時に起きている
  • 屋外に出ると症状が軽くなり、部屋に戻ると再び悪化する
  • 燃焼器具(石油ストーブ、ガスファンヒーター、ガス湯沸かし器、炭など)を使用中・使用直後である
  • ペットも同時に元気がない
  • 意識がもうろうとしている/意識を失った

その場の行動

  1. すぐに窓とドアを全開にして屋外に出る(外の空気が悪くても、CO中毒より優先です)
  2. 燃焼器具を止める(安全にできる範囲で)
  3. 119番通報
  4. 症状が軽くなっても自己判断で戻らない(遅発性の後遺症が起こりうるため、必ず医療機関で評価を受けてください)

このほか、喘息発作で会話が途切れる・唇や爪が青紫色・呼吸が速く苦しい強い胸痛や息切れがある場合も救急を要します。

🏥 当日〜数日以内に受診

  • 黄砂やPM2.5の高濃度日に、喘息・COPDの症状が明らかに悪化した(発作回数の増加、夜間の咳で眠れない、いつもの吸入で戻らない)→ かかりつけ医へ当日〜翌日
  • 咳・喘鳴・息切れが数日続き、市販薬や普段の対処で改善しない
  • 目のかゆみ・結膜炎・鼻水・くしゃみ・皮膚症状が強く、日常生活に支障がある(眼科・耳鼻科・皮膚科・アレルギー科)
  • 新築・リフォーム・新しい家具の搬入後に、頭痛・目やのどの刺激・めまい・倦怠感が出て、その家から離れると軽くなる(シックハウス症候群の可能性 → 内科/アレルギー科。あわせて施工業者に室内空気の測定を相談)
  • 高齢者・糖尿病・慢性腎臓病の既往がある方で、黄砂の飛来後に動悸・息切れ・むくみなどの循環器症状が出た

👀 経過観察でよいもの(ただし環境は見直す)

  • 締めきった部屋で眠気・集中力の低下・軽い頭重感があり、窓を開けたり換気をすると数十分で改善する → 換気状況の見直しで対応(CO2濃度計での確認も一案)。換気で完全に戻るなら緊急性は低いと考えられます
  • 調理中だけ目やのどがしみる → レンジフードの使用と運転時間(調理前から調理後まで)を見直す
  • 乾燥や湿度による軽いのどの不快感 → 相対湿度40〜70%(学校基準では30〜80%)を目安に調整

※ただし、「窓を開けると治る頭痛」が繰り返し起きていて、燃焼器具を使っている場合は、CO中毒の初期を疑って上記🚑の基準に戻って判断してください。

受診の目安を3段階(すぐに119/当日〜数日以内に受診/経過観察)で縦に並べた図解


ラドンは「受診」ではなく、測定と低減の話です

最後に、冒頭のラドンへ戻ります。

ラドンは急性症状を起こしません。 頭痛やだるさが出たからといって「ラドンのせい」ということはないんですね。だから上の受診の目安とは、経路そのものが別になります。

ラドンの問題は、長期間の吸入による肺がんリスクです。そして、喫煙と組み合わさると危険が大きく跳ね上がります。

気になる方のための道筋は、こうなります。

  1. まず、リスクを冷静に見積もる。 日本の住宅の屋内ラドンは平均14〜16 Bq/m³で、WHO参考レベル100 Bq/m³を超える住宅は約0.1%。多くの日本の家庭で、優先度は高くありません
  2. 測定する。 ラドンは無色・無臭で、測ってみるまで分かりません。季節変動があるため、年間平均での評価が基本です。※日本国内で一般家庭が測定を依頼できる公的窓口や費用については、今回の調査で一次資料を確認できませんでした。特定のサービスや価格は書けません
  3. 低減する。 WHOが挙げている方法は、床下換気の強化・ラドン排出(サンプ)システムの設置・床と壁の隙間の気密化の3つ。「受動的な低減システムで、屋内ラドン濃度を50%以上下げられる」とされています。施工は建築の専門家に相談してください
  4. もっとも効果の大きい行動は、禁煙です。 ラドンによる肺がんリスクは、喫煙者で非喫煙者の約25倍。ラドン対策を考える前に、まず禁煙と受動喫煙の回避です

順番が逆にならないように。床下の工事を検討する前に、灰皿を片づけるほうが、はるかに効きますから。


一日じゅう窓を閉めきっていたあの日、私が本当に気にすべきだったのは何だったのか。

調べ終えて残ったのは、拍子抜けするほど地味な三つでした。給気口が塞がっていないか。調理のときにレンジフードを回しているか。開放型の暖房器具を使っていないか。

放射性物質の名前でも、聞いたことのない化学物質でもありませんでした。

外の空気を心配することと、内の空気を管理すること。この二つは別の作業で、後者のほうが、自分の手が届く範囲にあります。

窓を閉めるかどうかは、その日の数字を見て決めればいい。でも台所の換気扇を回すかどうかは、毎日の自分が決めていることですから。


免責:本記事は室内空気質に関する一般的な情報提供を目的としたもので、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。症状がある場合、持病(喘息・COPD・心疾患・糖尿病・慢性腎臓病など)がある場合、妊娠中・乳幼児・高齢者の場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。住宅の換気設備に関する具体的な判断は、建築士・施工業者・設備業者などの専門家にご確認ください。記載した基準値・制度は2026年9月時点で確認したものであり、法令・告示は改正されることがあります。

参考資料:WHO「Radon and health」/WHO「Household air pollution and health」/環境省「屋内ラドン」(放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料)/環境省「微小粒子状物質(PM2.5)に関する情報」/環境省「黄砂とその健康影響について」(平成30年度パンフレット)・「黄砂問題について」/日本原子力研究開発機構 ATOMICA「自然放射線と被ばく」/e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」第2条・「建築基準法施行令」第20条の8/国土交通省「建築基準法に基づくシックハウス対策について」/文部科学省「学校環境衛生」(令和8年文部科学省告示第35号、令和8年2月27日付 7文科教第1746号通知)/Suzuki G, et al. J Radiat Res. 2010;51(6):683-9/Oikawa S, et al. J Environ Radioact. 2006;87(3):239-45/Du B, et al. Indoor Air. 2020;30(6):1067-1082/Kang K, et al. Sci Total Environ. 2019;668:56-66(韓国)/鍵直樹『一般室内環境及びクリーンルームの粒子状物質について』室内環境 2020;23(2)/東賢一『燃焼により発生する室内空気汚染物質の健康影響』室内環境 2022;25(3)/US EPA「Nitrogen Dioxide’s Impact on Indoor Air Quality」「Air Cleaners and Air Filters in the Home」「Guide to Air Cleaners in the Home」/US CDC「About Carbon Monoxide Poisoning」。2026年9月時点の整理です。

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