骨盤内炎症性疾患PIDの症状・原因と不妊を防ぐ方法

骨盤内炎症性疾患PIDの症状・原因と不妊を防ぐ方法

正直に言うと、下腹部の痛みを「いつもの生理痛かな」で済ませてしまうことは、私にもよくあります。

でも調べていくうちに、その痛みの奥に骨盤内炎症性疾患(PID)が隠れていることがある、と知りました。しかも初期は軽症・無症状のことも多く、放っておくと将来の妊娠にまで影響しうるのですね。

この記事では、骨盤内炎症性疾患(PID)の症状・原因と、不妊を防ぐための考え方を、信頼できる資料をもとに整理しました。少し重いテーマですが、落ち着いて読んでいただければと思います。

白いソファで落ち着いてノートを開く女性の手元。穏やかで清潔感のある雰囲気

Photo: John Diez / Pexels

骨盤内炎症性疾患(PID)とは何でしょうか

骨盤内炎症性疾患(PID: Pelvic Inflammatory Disease)は、腟や子宮頸管の細菌が子宮を通って上へ広がり、子宮・卵管・卵巣・骨盤腹膜などに炎症を起こす感染症です。骨盤腹膜まで炎症が及んだ状態(骨盤腹膜炎)も含みます。

典型的には、細菌が腟 → 子宮頸部 → 子宮 → 卵管 → 骨盤腔へと上に向かって広がっていきます(上行性感染)。卵管まで及ぶと卵管炎、骨盤腹膜に及ぶと骨盤腹膜炎と呼ばれます。

多くは一種類の菌だけでなく、複数の菌が混ざった混合感染であるとされています。

原因は「性感染症だけ」とは限りません

PIDの主な原因は、性感染症である淋菌(Neisseria gonorrhoeae)とクラミジア(Chlamydia trachomatis)の上行性感染です。

ただ、ここは丁寧にお伝えしたいところなのですが——資料によって強調点が少し違います。

MSDマニュアルは、急性PIDでは淋菌またはクラミジアが検出されるのは50%未満とし、大腸菌などの腸内細菌や嫌気性菌の関与を強調しています。つまり「主な原因はクラミジア・淋菌だけれど、それ以外の菌も多く関わっていて、検査で見つからないこともある」というのが実際に近いようです。

だからこそ大事な注意点があります。

「STI検査が陰性だったから、PIDではない」とは言い切れないのですね。

もとをたどると、腟炎や子宮頸管炎(特にクラミジア頸管炎)を放置した結果、菌が上へ広がってPIDに至るケースが少なくありません。しかもクラミジア頸管炎は、女性では自覚症状に乏しく、気づかないまま進行しやすいという難しさがあります。

性的活動が活発な若年女性、複数のパートナー、コンドームの未使用、STIの既往、子宮内避妊具(IUD)の挿入直後などは、リスク要因として挙げられています。

生理痛と間違えやすい症状に注意

PIDの一般的な症状・徴候は次のとおりです。

  • 下腹部痛・骨盤痛(両側の下腹部に多い)
  • おりもの(頸管分泌物)の増加・異常
  • 発熱・悪寒
  • 不正性器出血、性交痛

診察では、子宮頸部を動かすと痛む「子宮頸部移動痛」や、子宮・付属器の圧痛などが手がかりになります。

やっかいなのは、軽症・無症状のこともあるという点です。症状が軽いために見逃され、慢性化や卵管の障害へ進んでしまうケースがあります。

そして、いちばんの落とし穴がこれです。

初期の下腹部痛は、生理痛(月経痛)とよく似ていて混同されやすいのですね。「いつもより強い・長引く下腹部痛」に「発熱」や「おりものの異常」が加わったときは、生理痛と決めつけず受診してほしいと思います。

「いつもの生理痛」と「受診を考えたい下腹部痛」を見分ける比較表

放置すると不妊・子宮外妊娠のリスクが高まります

PIDでもっとも避けたいのが、長期の合併症です。

治療が遅れると、卵管の炎症が瘢痕(きずあと)となり、卵管が閉塞・狭窄したり癒着したりします。その結果、不妊・慢性骨盤痛・異所性妊娠(子宮外妊娠)につながります。

具体的な数値も紹介されています。

  • 卵管卵巣膿瘍は、卵管炎の患者の約15%に発生するとされます(MSDマニュアル プロフェッショナル版)。これは卵管炎の患者における割合で、PID全体の割合とは異なる点に注意が必要です。
  • PIDの既往がある女性は、卵管妊娠(異所性妊娠の一種)の発生率が6〜10倍に増加するとされます(MSDマニュアル家庭版)。数値は出典によって表現が異なるため、範囲として捉えてください。

不妊のリスクは、感染の重症度や繰り返した回数が増えるほど積み上がっていきます。つまり、早く見つけて早く治すことが、卵管を守り不妊を防ぐ最善策なのですね。

検査と治療 — パートナーも一緒に

検査では、淋菌・クラミジアの核酸増幅検査(NAAT)が中心になります。感度・特異度ともに約99%と精度が高い検査です。加えて、血液検査(炎症反応)、経腟超音波、必要に応じて妊娠検査などが行われます。

診断のハードルは、あえて低めに設定されています。性的活動のある若年女性で、①子宮頸部移動痛、②子宮の圧痛、③付属器の圧痛のいずれか一つでもあれば、ほかに説明がつかない限りPIDとして治療を始める——過小診断を避けるための考え方です。

治療は抗菌薬が原則です。軽症〜中等症は外来での内服、重症や膿瘍がある場合、妊娠中などは入院して点滴を行います。

なお、外来での治療例としては、セフトリアキソンの筋注に、ドキシサイクリンとメトロニダゾールの内服を組み合わせる方法などが挙げられています。ただしこれは主に米国基準(MSDマニュアル)に基づく一例で、日本国内の実際の処方は施設やガイドラインによって異なります。具体的な薬は、必ず医師の診断・処方に従ってください。

そしてもう一つ、忘れてはいけないことがあります。

再感染を防ぐため、パートナーの同時治療が重要です。治療は自己判断で中断せず、最後まで完遂しましょう。

日本で増えるクラミジア — 予防のために

背景として知っておきたいのが、日本の性感染症の動向です。

性器クラミジア感染症は、現在の日本で最も多く報告されている性感染症です(国立健康危機管理研究機構、厚生労働省)。2024年の年間報告数は約29,795件(暫定速報値)で、2015年前後を境に増加傾向に転じています。

特に20代前半の若年層でリスクが高く、女性は29歳以下で男性の患者数を上回る傾向があります。女性は自覚症状に乏しいため、無自覚のうちに進行し、PIDや不妊の原因になりうるのが心配な点です。しかもこれらは定点医療機関からの報告で、実際の感染者は報告値の数倍以上と推測されています。

だからこそ、予防の柱はシンプルです。

  • STIを予防する — コンドームを適切に使う、パートナー間で検査を受ける、複数パートナーを避ける。
  • 早期発見・早期治療 — 腟炎や子宮頸管炎(特にクラミジア)を放置しない。無症状でも定期的なSTI検査を受ける。
  • 疑わしいときは速やかに婦人科を受診し、抗菌薬治療を早く始める。

PID・不妊を防ぐ予防の三本柱(コンドームの適切な使用・定期的なSTI検査・早めの受診)の図解

[内部リンク: 関連記事 – クラミジア感染症の症状と検査のタイミング]


「たぶん生理痛だから」と我慢してやり過ごすことは、誰にでもあります。私も、そうでした。

でも、その痛みの奥に、将来の妊娠を左右するかもしれない炎症が隠れていることがある——そう知ると、体の声を少していねいに聞こうと思えます。

最後にひとつだけ申し添えます。この記事は一般的な情報であって、診断ではありません。下腹部痛に発熱やおりものの異常が加わったときは、自己判断せず産婦人科で相談してみてください。早く動くほど、守れるものが多いですから。


※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。

参考にした主な情報源

  • MSDマニュアル プロフェッショナル版/家庭版「骨盤内炎症性疾患(PID)」
  • 国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報「性器クラミジア感染症の動向」
  • 厚生労働省「性感染症報告数」
  • 日本医事新報社「子宮付属器炎:骨盤内炎症性疾患[私の治療]」ほか

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