妊娠糖尿病の症状と食事管理|75gOGTTと血糖目標
正直に言うと、「妊娠糖尿病」と健診で言われて、頭が真っ白になったという話をよく耳にします。
自分の食生活が悪かったのだろうか、と自分を責めてしまう方も少なくないのですが、必ずしもそうではありません。
まず知っておいてほしいのは、妊娠糖尿病は「妊婦さんのせい」ではない、ということです。
この記事では、妊娠糖尿病(GDM)とは何か、どう診断され、食事と血糖をどう管理していくのかを、公的機関の情報にそって落ち着いて整理します。数値や治療の最終判断は、必ず主治医の指示によります。

妊娠糖尿病とは何か ― 「体質と胎盤」の話
妊娠糖尿病(GDM)とは、妊娠前に糖尿病と診断されていない女性が、妊娠中に初めて指摘される「糖代謝異常」のことです。
原因は、生活習慣だけではありません。
妊娠が進むと、胎盤から分泌されるホルモン(ヒト胎盤ラクトゲンなど)の影響で、インスリンが効きにくい状態 ― いわゆるインスリン抵抗性が起こります。膵臓がそれに十分対応できないと、血糖が上がりやすくなるのですが、これはかなりの部分が体質・胎盤側の要因なのです。
日本内分泌学会の解説では、全妊婦の約12.08%に妊娠糖尿病がみられ、既存の糖尿病合併妊娠なども含めると、約15%が耐糖能異常と診断されるとされています。決してめずらしいことではありません。
なお、糖尿病の家族歴・肥満・高年妊娠・巨大児出産の既往・尿糖陽性などは、一般にリスク因子として挙げられます。
症状はほとんどない ― だから検査で見つける
ここが妊娠糖尿病のやっかいなところなのですが、GDM自体には自覚症状がほとんどないことが多いのです。
だからこそ、妊婦健診の血糖スクリーニングで見つけることが大切になります。
一般的な流れは、随時血糖や50gGCT(グルコースチャレンジテスト)などのスクリーニングを行い、陽性であれば75gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)に進む、というものです。
「自覚がないから大丈夫」ではなく、「自覚がないからこそ検査が重要」なのだと思います。
75gOGTTの診断基準

診断は、妊娠中期を中心に75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)で行います。10時間以上の絶食後に空腹時採血をし、75gのブドウ糖を負荷して、1時間後・2時間後に採血。計3回の血糖値で判定します。
日本産科婦人科学会・日本糖尿病学会が採用するIADPSG基準(平成27年改訂)では、次のうち1点以上を満たすとGDMと診断します。
- 空腹時血糖 92 mg/dL 以上
- 負荷後1時間値 180 mg/dL 以上
- 負荷後2時間値 153 mg/dL 以上
これとは別に、より高値の場合は「妊娠中の明らかな糖尿病(空腹時126mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上など)」に区分され、GDMとは重症度も扱いも異なります。
治療中の血糖管理目標
診断がついたら、次は目標値です。日本内分泌学会の解説に示される厳格な血糖コントロール目標は、次のとおりです。
- 空腹時 95 mg/dL 以下
- 食後1時間 140 mg/dL 以下
- 食後2時間 120 mg/dL 以下
ただし、具体的な目標は施設や一人ひとりの状態によって医師が設定します。血糖自己測定(SMBG)で日々の食後血糖を把握し、食事や治療の調整に役立てることもあります。
[内部リンク: 関連記事 – 妊婦健診のスケジュールと検査項目]
放置しないほうがいい理由 ― 合併症
正直に言えば、症状がないぶん「まあ大丈夫だろう」と思いたくなる気持ちもわかります。
ですが、管理が不良だと母子ともにリスクがあります。
胎児・新生児側では、巨大児(母体の高血糖が胎児に移行し、胎児が過剰にインスリンを出して過成長する)や、それに伴う難産・肩甲難産、新生児低血糖、新生児黄疸・多血症などが挙げられます。
母体側では、ケトアシドーシス、もともと網膜症・腎症がある場合の悪化、妊娠高血圧症候群、羊水過多などの周産期リスクがあります。
そして見落とされがちなのが、産後の話です。GDMの既往がある女性は、将来2型糖尿病を発症しやすい素因を持つとされています。産後も食事・運動の継続と、産後の耐糖能再評価(産後の75gOGTTなど)が勧められます。
食事療法は「分割食」が中心

Photo: Viridiana Rivera / Pexels
治療の基本は食事療法です。目的は、母子に必要な栄養を確保しながら、食後の高血糖と血糖変動を抑えることにあります。
ここで中心になるのが分割食(分食)です。
1回の食事で食後血糖が上がりやすい場合、1日3食を4〜6回に分けて少量ずつ食べます。たとえば、朝食/10時の間食/昼食/15時の間食/夕食/夜食のように、総カロリーを増やさずに配分するイメージです。
摂取エネルギーの目安は、標準体重あたり約30kcalを基本に、妊娠時期に応じた付加量を加えます。付加量や総量は、体格や週数に応じて医師・管理栄養士が調整します。
食べ方の工夫としては、次のような一般原則があります。
- 白米など精製された炭水化物に偏らず、雑穀・食物繊維(野菜)とタンパク質を組み合わせる
- よく噛んで、ゆっくり食べる
- まとめ食い・早食いを避け、一定量を規則的に
ひとつ強調しておきたいのは、極端な糖質制限や自己流の減食は行わないということです。母子に不利益となりうるので、必ず専門家の指導のもとで進めます。
運動については、医師の許可があれば、ウォーキングなどの適度な運動が食後血糖の改善に役立つとされます。ただし切迫早産など運動が禁忌の状態では行いません。実施の可否は、必ず主治医に確認してください。
それでも届かないとき ― インスリン療法
食事・運動療法で血糖目標に達しない場合は、インスリン療法を行います。
ここで大切なのが、妊娠中は経口血糖降下薬を原則使わず、インスリンを用いるということです。
インスリンは胎盤をほとんど通過せず、母体の血糖コントロールに用いられます。分娩後はインスリンの必要量が急に下がるため、産後は用量の調整や中止を含めて医師が管理します。
「インスリン=重症」と身構えてしまう方もいますが、あくまで目標に届かせるための手段のひとつなのだと思います。
妊娠糖尿病は、自覚症状がないまま見つかることが多い一方で、食事と血糖の管理でしっかり付き合っていける状態です。
自分を責める必要はありません。原因の多くは体質と胎盤の側にあるのですから。
異常を指摘されたら自己判断せず、必ず産婦人科・糖尿病内科(内分泌内科)を受診してください。数値目標も治療方針も、あなたの妊娠の状態を見ている主治医が決めていきますから。
※本記事は一般的な医学情報の整理であり、診断・治療の指示ではありません。妊娠中の血糖異常は自己判断せず、必ず専門医を受診してください。
関連記事
– [内部リンク: 関連記事 – 妊娠中の体重管理と栄養のとり方]
– [内部リンク: 関連記事 – 産後の血糖再チェックと2型糖尿病予防]
参考にした主な情報源: 日本内分泌学会、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、国立健康危機管理研究機構 糖尿病情報センター、日本糖尿病・妊娠学会、日本糖尿病学会
