甲状腺機能低下症の症状と診断|TSH検査と治療

甲状腺機能低下症の症状と診断|TSH検査と治療

正直に言うと、甲状腺機能低下症の症状は、とても見逃されやすいのです。

強い疲れ、寒がり、むくみ、体重増加 ― どれも「更年期かな」「歳のせいかな」「疲れているだけ」と片づけられがちで、ゆっくり進むぶん、本人も気づきにくい。

この記事では、甲状腺機能低下症とは何か、どんな症状が出て、TSH検査でどう診断され、レボチロキシンでどう治療していくのかを、学会・大学病院の情報にそって落ち着いて整理します。数値の解釈や薬の判断は、必ず内分泌内科(甲状腺専門医)によります。

甲状腺機能低下症の原因・症状・診断・治療の流れを示した図解

甲状腺機能低下症とは ― 全身の代謝が落ちる状態

甲状腺は、のどぼとけの下(頸部)にある臓器で、全身の代謝を調節するホルモンを分泌しています。

甲状腺機能低下症とは、その甲状腺ホルモンの作用が必要量より低下し、全身の代謝が落ちる状態のことです。

ホルモンが不足すると、体のあちこちにさまざまな不調が現れます。

原因で最も多いのは、自己免疫による慢性甲状腺炎(橋本病)です。

原因 ― 橋本病がいちばん多い

原因は、大きく「原発性」と「中枢性」に分けられます。

原発性(甲状腺そのものの問題/最多)
慢性甲状腺炎(橋本病):最も多い原因。自己免疫疾患で、甲状腺に対する抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体〔TPOAb〕・抗サイログロブリン抗体〔TgAb〕)が陽性になります。女性に多いのが特徴です。
– そのほか:ヨウ素の過剰摂取(昆布など)、甲状腺手術後、放射性ヨウ素治療後、一部の薬剤など

中枢性(下垂体・視床下部の問題)
脳腫瘍・脳外傷などで下垂体・視床下部の機能が低下し、TSH分泌が不足するもの。頻度は低いとされます。

なお、橋本病があっても甲状腺機能が正常に保たれている人も多く、全員が低下症になるわけではありません。

症状 ― ゆっくり進むから見逃されやすい

甲状腺機能低下症の代表的な症状(寒がり・むくみ・体重増加・倦怠感・便秘・肌の乾燥)を示した図

代表的な症状は、次のようなものです。

  • 無気力・強い倦怠感・疲労感
  • 寒がり(寒さに弱い)
  • むくみ、食欲がなくても体重増加
  • 動作が遅くなる、記憶力・思考力の低下
  • 便秘、皮膚の乾燥、脱毛(頭髪・眉毛の外側)
  • 低体温、徐脈、過多月経、うつ状態、アキレス腱反射の低下など

これらの症状は、ゆっくり進行し、しかも非特異的(加齢・更年期・うつなどと紛らわしい)です。だからこそ見逃されやすいのです。

「食べていないのにむくんで太る」「異常に寒がる」「強い疲れが続く」といった訴えが、受診のきっかけになりやすいとされます。

なお、強い低下が進むと、傾眠・意識障害をきたす粘液水腫性昏睡という緊急の状態を生じることがあります。

診断 ― 基本は血液検査(TSH・FT4・抗体)

診断の基本は、血液検査です。

  • 原発性 顕性(けんせい)甲状腺機能低下症TSHが高値、かつFT4が低値。甲状腺の機能が落ち、それを補おうと下垂体がTSHを多く出すため、このパターンになります。
  • 潜在性甲状腺機能低下症:FT3・FT4は正常範囲だが、TSHのみ高値の状態(後述)。
  • 中枢性:TSHが上がらないのにFT4が低い、など原発性と異なるパターン。

橋本病かどうかは、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)・抗サイログロブリン抗体(TgAb)を測定し、いずれかが陽性なら橋本病と診断します。甲状腺エコーも補助に用います。

[内部リンク: 関連記事 – 女性に多い甲状腺の病気(橋本病とバセドウ病)]

潜在性甲状腺機能低下症(TSHだけ高い)

FT4は正常で、TSHのみ高値 ― これが潜在性甲状腺機能低下症です。

健康な人の約4〜20%に認められ、特に女性・高齢者に多いとされます。

治療するか、経過をみるかの一般的な目安は、次のとおりです。

  • TSHが10 mIU/Lを超える場合、その後、顕性低下症に進行しやすく、無症状でもレボチロキシン治療を検討・推奨するとされます(MSDマニュアルなど)。
  • TSHが概ね4.5〜10 mIU/Lで、低下症の初期症状がある場合は、レボチロキシンの試験的投与が妥当とされることがあります。症状がなければ経過観察も選択肢です。
  • 妊娠・妊娠希望では扱いが厳格になります。甲状腺自己抗体陽性の潜在性低下症は流早産・妊娠高血圧症候群などのリスクが高く、治療で改善が期待できるため、TSH 2.5 µIU/mL以下を目標にレボチロキシン治療を行うとされます(日本甲状腺学会の手引き〔妊娠編〕など)。

経過観察の場合も、進行やコントロール確認のため、血清TSH・FT4を年1回程度測定することが勧められます。

治療 ― レボチロキシンの補充

レボチロキシンの服用タイミングと鉄剤・カルシウムとの時間差を示した図

治療は、不足した甲状腺ホルモンを補う合成T4製剤 レボチロキシン(チラーヂン®S)の内服です。基本的には補充療法で、多くは継続的な服用が必要になります。

成人の維持量は、おおむね50〜150 µg/日。少量から開始し、TSHを見ながら調整することが多く、特に高齢者・心疾患のある人は慎重に増量します。妊娠中は必要量が増え、100〜150 µg/日程度で開始・調整することがあります(個々で異なります)。

飲み方には、吸収を安定させるためのポイントがあります。

  • 基本は朝食前の空腹時(起床時に服用し、30分以上あけて朝食)が、最も吸収がよいとされます。
  • 鉄剤・カルシウム・亜鉛などのサプリや一部の薬と一緒に飲むと吸収が低下するため、時間をあけます。

なお、近年は、空腹時服用が負担な場合に就寝前服用や、用量調整のうえでの非空腹時服用でもTSHコントロールが可能とする報告もあります。方針が更新されつつある部分なので、飲み方の変更は自己判断せず、必ず医師に相談してください。

TSHが正常(目標)域に入るよう用量を調整しますが、過剰投与は動悸・不眠・骨や心臓への負担など、甲状腺機能亢進様の副作用を招きます。定期的な血液検査でモニタリングすることが大切です。

経過・生活上の注意

適切に補充すれば、症状はコントロールでき、通常の生活が送れることが多いとされます。橋本病自体は自己免疫が背景なので、機能を定期チェックしながら付き合っていきます。

ヨウ素(昆布・ヨード系うがい薬など)の過剰摂取は甲状腺機能に影響しうるため、極端な多量摂取は避けます(詳細は主治医の指示に従ってください)。

妊娠・妊娠希望では、甲状腺機能の管理が母子に重要なため、事前・早期の評価が勧められます。


甲状腺機能低下症は、症状がゆっくり進み、更年期や加齢、うつと紛らわしいために見逃されやすい病気です。

けれど、TSHという一つの血液検査が、その正体を静かに教えてくれることがあります。

「食べていないのに太る」「異常に寒がる」「強い疲れが続く」 ― もし思い当たるなら、それは「歳のせい」ではないかもしれません。

症状や検査値の解釈、レボチロキシンの開始・用量は、必ず内分泌内科(甲状腺専門医)の判断によります。自己判断で薬を開始・中止・増減せず、どうか一度、相談してみてください。

※本記事は一般的な医学情報の整理であり、診断・治療の指示ではありません。

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参考にした主な情報源: 日本内分泌学会、日本甲状腺学会、慶應義塾大学病院 KOMPAS、MSDマニュアル プロフェッショナル版、日経メディカル

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