シニアのプロテイン選びは運動が先|サルコペニア対策の正しい順番

シニアのプロテイン選びは運動が先|サルコペニア対策の正しい順番

正直に申し上げると、私が最初に親のためのプロテインを調べ始めたきっかけは、ずいぶん単純なものでした。

「年をとると消化吸収が落ちるから、三食だけでは筋肉を守れない」。どこかでそう読んだんです。

それで、おなかを下しにくいという触れ込みの粉を選んで、あとは飲んでもらうだけ。そう思っていました。

でも、公的な資料を一つずつ当たり直していくうちに、順番がまるで違うことに気づいたんですね。

先に結論をお伝えします。シニアのプロテイン選びは、実は「選び方」から始まる話ではありません。

まず運動、次に食事(food first)、そして足りない分を補う。 サルコペニア対策として一貫して支持されているのは、この順番のほうでした。製品を選ぶのは、いちばん最後の工程です。

「①運動(レジスタンス運動) → ②食事 food first → ③足りない分だけ補う」の3ステップを左から右へ矢印でつないだ横型フロー図。製品選びが最後の工程であることを示している

そしてもう一つ、先にお断りしておきます。この記事は一般的な情報の整理であって、診断や治療、栄養指導に代わるものではありません。とくに腎臓の数値(eGFR)を知らないまま、高たんぱくを始めないでください。 慢性腎臓病(CKD)や糖尿病、肝疾患のある方、服薬中の方、そしてご高齢のご家族に何かをすすめる前には、必ず医師や管理栄養士にご相談くださいね。この点は記事の後半でもう一度、詳しくお伝えします。


まず結論から|プロテインより先に来るのは「運動」なんです

いちばん驚いたのが、ここでした。

たんぱく質を足すだけでは、筋肉は思ったほど増えていない。 複数のメタ解析が、そう報告しているんです。

  • Ten Haaf DSM ら(Am J Clin Nutr 2018;108(5):1043-1059) は、非虚弱の地域在住高齢者を対象にした36研究・1,682名を統合しました。結果は、除脂肪量・握力・下肢筋力・歩行速度・椅子立ち上がり能力のいずれにも、対照との有意差なし。しかも論文は「レジスタンス運動に上乗せしても優越性を示さない」と結論づけています。
  • Whaikid P & Piaseu N(Epidemiology and Health 2024年2月14日) は、サルコペニアと診断された地域在住高齢者854名を対象に、たんぱく質補給とレジスタンス運動を組み合わせた研究を統合しました。こちらでは筋量 SMD 0.95(95%CI 0.13〜1.78)、握力 SMD 0.32(95%CI 0.08〜0.56) と、いずれもp<0.05で有意差が出ています。

この二つを並べると、輪郭がはっきりしてきます。運動が入ると数字が動き、入らないと動かない。

Whaikidらの論文には、こう書かれていました。

“without resistance exercise, protein supplementation did not confer benefits in enhancing muscle strength”(レジスタンス運動なしでは、たんぱく質補給は筋力向上に寄与しなかった)

日本のガイドラインも、同じ方向を向いています。『サルコペニア診療ガイドライン2017年版(一部改訂2020年4月3日発行)』のCQ4 は、「レジスタンストレーニングを含む包括的運動介入と栄養療法による介入は、単独介入に比べサルコペニアの改善に有効である」というステートメントを掲げています。ただし、エビデンスレベルは「非常に低」、推奨レベルは「弱」であり、長期的アウトカムの改善効果は不明とされている点も、あわせて書いておきます。

ただし、反対の報告もあります

ここは正直にお伝えしておきたいところです。

2024年のメタ解析(Ageing Research Reviews、たんぱく質補給の用量・頻度・タイミングと筋量)は、「運動介入なしでもたんぱく質補給で筋量の増加がみられた」と報告しています。 Ten Haafらとは結果が一致していません。

私自身、この論文の全文にはたどり着けませんでした(出版社サイトが403で開けませんでした)。ですから効果量や信頼区間の数値は、この記事では出しません。 確かめられていない数字を並べるより、確かめられていないと書くほうが誠実だと思うからです。

そして『日本人の食事摂取基準(2025年版)』も、この論点について「アンブレラレビューが2つ存在するが、結果は一致していない」と記載しています。国の基準づくりの現場でも、決着はついていないということですね。

それでも「運動を主役に置く」という結論は変わりません。 一致していないのは「たんぱく質単独でも効くかどうか」であって、「運動との併用が支持されるかどうか」ではないからです。

実は、制度のほうが先にそう言っています

ここが、私が調べていていちばん腑に落ちた部分でした。

筋肉に関する機能性表示食品の届出実績を見ると、機能性関与成分として「ロイシン40%配合必須アミノ酸混合物」や「HMBカルシウム」といった名前が並んでいます。

そして、その届出表示そのものが「軽い運動との併用」を前提にしているんです。表示の趣旨は、「加齢により低下する筋肉の合成を、足の運動などの軽い運動と併用することでサポートし、歩行能力の改善に役立つ」という方向でまとめられています。

つまり、届け出ている側も「これだけ飲めば」とは言っていない。運動とセットである前提で、機能性が語られているわけですね。

(※届出表示の全文は消費者庁の届出情報データベースで確認できますが、私はまだ原文照合ができていません。ここでは「そういう方向でまとめられている」という趣旨の紹介にとどめます。)

明るい窓辺の部屋で、片手に軽いダンベルを持ってゆっくり腕を伸ばしている手元のクローズアップ

Photo: MART PRODUCTION / Pexels

運動は「安全に行える範囲で」

ただ、運動をすすめる以上、これは必ず添えなければいけません。

高齢期の運動には、転倒のリスクがあります。強度や種目を自己流で決めず、安全に行える範囲で、できれば理学療法士や健康運動指導士などの専門職の指導のもとで始めてください。持病がある方は、開始前に主治医に相談を。


「三食だけでは足りない」は、全員には当てはまりません

私が最初に信じ込んだ前提、覚えていますでしょうか。「三食だけでは筋肉を守れない」。

これも、日本の実測データを見ると、断定はできませんでした。

国民健康・栄養調査(2019年度、日本腎臓学会『CKD診療ガイド2024』第8章 栄養が引用) による、たんぱく質の平均摂取量です。

区分 平均摂取量 推奨量(食事摂取基準2025年版)
75歳以上 男性 75.9 g/日 60 g
75歳以上 女性 65.3 g/日 50 g
20歳以上 男性 78.8 g/日 —
20歳以上 女性 66.4 g/日 —

平均で見れば、75歳以上でも推奨量を上回っています。 体重60 kgの男性なら75.9 gは約1.27 g/kg体重/日にあたり、65歳以上の目標量下限(15%エネルギー、≒1.2 g/kg体重/日相当)も満たす計算になります。

「だったらプロテインなんて要らないじゃないか」と思われるかもしれません。でも、話はそこで終わりません。

平均の裏側に、確実に足りていない層がいます

低栄養傾向(BMI 20 kg/m²以下)の65歳以上の割合は、令和4年(2022年)の国民健康・栄養調査で男性12.9%・女性22.0%。 女性は、およそ5人に1人です。

しかも同調査は「この10年間で男女とも低栄養傾向に有意な増減はみられない」「男女とも高齢になるほど割合が高くなる」と記しています。

つまり問われるべきなのは、「高齢者は足りているか」ではなく、「この人は足りているか」なんですね。

体重が知らないうちに落ちている。食が細くなって、主菜を残すようになった。BMIが20を下回っている。そうしたサインがあるなら、まず食事を整える。それが food first という順番の意味です。

上段に75歳以上の平均たんぱく質摂取(男性75.9 g/日・女性65.3 g/日)と推奨量(男60 g・女50 g)、下段に低栄養傾向(BMI 20以下)の65歳以上の割合(男性12.9%・女性22.0%)を対比したカード型の図解

国の基準は、どう決められているのか

参考までに、『日本人の食事摂取基準(2025年版)』(令和6年10月11日公表)の考え方も紹介しておきます。あくまで公的な基準としてこう定められているという引用であって、個人への処方ではありません。

  • たんぱく質維持必要量=0.66 g/kg体重/日(窒素出納法のメタ解析。60〜84歳では0.69)
  • 利用効率90%を見込んで、推定平均必要量=0.73 g/kg体重/日、推奨量算定係数1.25
  • 65歳以上の推奨量は男60 g・女50 g/日、目標量は15〜20%エネルギー
  • 目標量の下限15%は、65歳以上の推定エネルギー必要量に対し1.2 g/kg体重/日相当が占める割合(14.9〜16.6%エネルギー)から導かれています
  • 耐容上限量(UL)は設定されていません

なお、指標アミノ酸酸化法(IAAO)による研究では、高齢者で0.85〜0.96 g/kg体重/日と、窒素出納法より40〜50%高い値が報告されています。「推定必要量は過小評価かもしれない」という学術的な論点が、今も残っているということですね。

食卓に冷奴や煮物、青菜、汁物などの小鉢が並び、箸を伸ばす手が写っている家庭の食事の場面

Photo: RDNE Stock project / Pexels


⚠ 「ヤギ乳ならおなかを下さない」は、事実ではありませんでした

ここが、私がいちばん大きく間違えていたところです。

おなかを下しやすい親のために、「牛乳由来ではなくヤギ乳(山羊乳)由来のたんぱく質を選べばいい」。そう考えていました。

これは、成り立ちません。

文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表 八訂・増補2023年) の一次値を並べます。

食品(可食部100 gあたり) 値
普通牛乳 乳糖 4.4 g(単糖当量4.7 g/ぶどう糖・果糖等は0)
やぎ乳 炭水化物 4.5 g(主成分は乳糖)

⚠ ひとつ注意点があります。成分表には、やぎ乳の「乳糖」単体の内訳が収載されていません。 ですから厳密には「炭水化物4.5 gの主成分が乳糖」という読み方になります。それでも、ヤギ乳の乳糖は牛乳と同等か、むしろわずかに多いという結論は動きません。

国際的な報告でも、ヤギ乳の乳糖は約4.1〜4.7%、牛乳は約4.7〜5.2% とされています。仮にこちらを採っても、差は十数%程度です。「乳糖ゼロ」でも「大幅減」でもありません。

普通牛乳の乳糖4.4 g/100 gとやぎ乳の炭水化物4.5 g/100 gをほぼ同じ高さの棒グラフで並べ、「=ほぼ同じ。乳糖不耐の解決にはならない」と示した比較グラフィック

では「ヤギ乳は消化がよい」という話は何だったのか

まったくの嘘というわけでもないんですね。ただ、別の話でした。

「ヤギ乳は消化がよい」という通説の生化学的な根拠は、次の2点です。

  1. 脂肪球が小さい — ヤギ乳の脂肪球径は平均2.73〜3.63 μmで牛乳より小さく、表面積/体積比が大きいぶん消化酵素が作用しやすい。→ これは脂肪の消化の話。
  2. αs1-カゼインが少ない — 胃の中でできるカード(凝乳)が柔らかく崩れやすい。→ これはカゼイン(たんぱく質)の消化の話。

どちらも、乳糖とは別問題です。 乳糖でおなかを下している人が、脂肪球の大きさで救われる理屈にはなりません。

さらに、ヒトでの臨床的な優位性は一貫していません。 牛乳とヤギ乳でたんぱく質の消化に有意差が出なかった報告もあれば、条件によってはヤギ乳の加水分解が遅いという報告もあります。

そしてもう一点。牛乳アレルギー(カゼインへのIgE反応)のある方は、ヤギ乳にも交差反応することが多いとされています。「アレルギーの代替」としてもすすめられません。乳糖不耐と牛乳アレルギーは、まったく別のメカニズムです(Jミルク ファクトブック)。

⚠ ただし「下痢するからプロテインは全部ダメ」も誤りです

訂正のついでに、逆方向の思い込みも解いておきたいんです。

確かに、ラクターゼ非持続性(LNP)の比率は、アジアで95〜100% とされています(Sahi et al., Scand J Gastroenterol 1994/Jミルク ファクトブック「よくわかる!乳糖不耐」2020年3月)。日本人もここに含まれます。

でも、LNP=必ず症状が出る、ではありません。 Jミルクも「LNPであれば常に乳糖不耐の症状を示すというわけでもない」と明記しています。そもそも乳糖不耐は病気ではなく、離乳後にラクターゼ産生が下がるのは哺乳類に共通の生理現象です。

量の目安も、思ったより余裕がありました。

  • 奥恒行ら(2005年, J Nutr Sci Vitaminol):一過性下痢を起こす乳糖の最大許容量は0.72 g/kg体重。体重50 kgなら乳糖約35 g(牛乳約700 mL相当)にあたります。
  • ⚠ ただし対象は「牛乳で下痢した経験のない健常成人女性40数名」で、LP/LNPの判定はされていません。すでに症状がある方には当てはまりません。
  • MSDマニュアル家庭版(2025年3月レビュー/4月更新):成人では「250〜375 mL以上の牛乳を飲んだときだけ症状が現れる」ことが多い、とされています。

「自分は乳糖不耐だ」という思い込みで乳製品を丸ごと避け、カルシウムとたんぱく質の摂取機会を失っている方がいる。Jミルクは、この点をはっきり問題提起しています。

全部やめるか、全部飲むか。その二択ではないということですね。

乳糖と付き合う現実的な選択肢

選択肢 乳糖の扱い
WPI(分離乳清たんぱく質) たんぱく質90%超まで精製され、乳糖はおおむね1%未満(典型的に約0.5%)
WPC(濃縮乳清たんぱく質) たんぱく質35〜80%で、乳糖・脂質が残る。⚠ 具体的な乳糖%は製品差が大きく、断定できません
乳糖分解(ラクターゼ処理)製品 乳糖をあらかじめ分解済み。MSDマニュアルが対処法として記載
特別用途食品「無乳糖食品」 病者用食品の一区分として、制度上存在します
植物性たんぱく質(大豆・えんどう等) 乳糖を含まない。ただし後述の重金属の論点あり
1回量を減らして分ける 総量ではなく1回量が問題になる、という考え方

症状が本当に乳糖由来なのかを確かめる、という順番も忘れないでください。過敏性腸症候群や牛乳アレルギーとの鑑別が必要なこともあります。診断には水素呼気試験という検査があります。


飲んだたんぱく質が、全部そのまま筋肉になるわけではありません

これも、通説として広く流れている話ですよね。「摂ったたんぱく質が筋合成に向かう」。

生理学的には、成り立ちません。

摂取したたんぱく質由来のアミノ酸のうち、全身の循環に現れるのは高齢者で約45%、若年者で約51%(メタ解析)。残りは、内臓での初回通過抽出によって先に取り込まれます。そして循環に入った分も、酸化(エネルギー化)や内臓・血漿たんぱく質の合成、他組織の合成に配分されます。

つまり、骨格筋のたんぱく質に実際に取り込まれるのは、一部にすぎないということですね。

さらに加齢では、同化抵抗性(anabolic resistance) が加わります。同じたんぱく質量に対して、筋たんぱく質合成の反応が鈍くなる現象で、機序としてはアミノ酸に対するmTOR反応性の低下が挙げられています(長寿科学振興財団)。

だからこそ、Pennings/Groenらの研究(マーストリヒト大)では、健康な高齢男性33名(73±2歳)に13C標識ホエイを10 g/20 g/35 g摂取させたところ、筋たんぱく質への取り込みは35 gで10 g・20 gより多かったと報告されています。高齢期は、若年より1回量が要るということです。

摂取したたんぱく質由来アミノ酸のうち全身循環に到達する割合を示したドーナツ図2つ。高齢者は約45%、若年者は約51%で、残りは内臓での初回通過抽出にあたることを示している

「1食25〜30 g」という目安は、どこまで信じられるか

よく見かける目安ですよね。一般に、1食あたり25〜30 gの良質なたんぱく質(高齢者で0.4 ± 0.19 g/kg体重/食)で筋たんぱく質合成が最大に刺激される、とされています。

ただ、私はこれを「処方」としては書けません。理由があります。

  • 均等配分の効果は一貫していません。 25〜55歳の健常成人のRCTでは均等配分で約25%高い筋たんぱく質合成が観察されましたが、高齢者を対象とした2つの実験研究では同じ結果が得られていません。
  • ENABLEスタディ(Nutrients) では、機能制限のない健康な高齢者において、たんぱく質の量・配分・質のいずれも、筋量・筋力・パワーと関連しませんでした。

ですから「望ましい目安として、こういう数字が語られている」まで。「1日◯g飲みましょう」と言い切るだけの根拠は、少なくとも高齢者については揃っていません。

「消化酵素配合」は、どこまで確かめられているのか

これも気になるところですよね。結論から言うと、ヒトでの根拠は、かなり限定的でした。

Huang Y ら(J Nutr 2025年7月) が、ホエイたんぱく質+微生物プロテアーゼの急性効果を、無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験で調べています。

  • 対象は24名(男女各12名)、平均年齢25歳、BMI 23.6 — つまり若年の健常者です。
  • 60分iAUCでは必須アミノ酸+14%(p=0.025)、分岐鎖アミノ酸+15%(p=0.021)。
  • ただし120分iAUC(全アミノ酸)は群間差なし(p=0.937)。
  • そして消化器症状の重症度は、プロテアーゼ群とプラセボで同等でした。
  • 資金提供は酵素メーカー(BIO-CAT, Inc.) で、同社社員が著者に含まれ、関連特許出願もあります。
  • 論文自身が「骨格筋の変化など主要な代謝反応は評価していない」と明記しています。

まとめると、高齢者・長期・筋アウトカム・症状改善のいずれについても、ヒトでの根拠はまだありません。 あるのは、若年健常者の急性の血中アミノ酸データだけです。

なお、乳糖分解酵素(ラクターゼ)は、これとは別の話です。乳糖不耐に対するラクターゼ製剤や乳糖分解乳は、MSDマニュアルが標準的な対処法として記載しています。「消化酵素配合=万能」と混ぜて考えないほうがいいと思います。


⚠ 始める前に、腎臓の数値をご存じですか

安全の話として、ここがいちばん大事だと思っています。

日本腎臓病協会によれば、日本のCKD(慢性腎臓病)患者は推計約1,330万人。成人のおよそ8人に1人にあたります。人工透析患者は26万人を超え、毎年1万人ずつ増えています。(※「約2,000万人」とする推計も広く引用されており、推計値には幅があります。)

腎機能は加齢とともに低下しますから、高齢になるほど該当者は増えます。

そして問題は、多くの人が自分の数値を知らないまま、ということなんですね。

  • eGFR(血清クレアチニン)は、特定健康診査では「詳細な健診項目」=医師の判断で実施する扱いです。基本項目ではありません。
  • 労働安全衛生法に基づく一般健康診断への血清クレアチニン検査の追加は、令和9年(2027年)4月1日施行。つまり、まだ先です。
  • その背景として、「現行の尿蛋白検査のみではCKD患者の半数は抽出できない」と説明されています(厚生労働省/広島産業保健総合支援センター)。

制度としても、気づかないまま通り過ぎやすい構造になっている。だから「まず数値を確認する」が、順番として先に来るわけです。

庭の緑が見える大きな窓辺に、椅子と小さなテーブルが置かれた明るく落ち着いた相談スペース。医療器具は写っていない

Photo: haru mio / Pexels

CKDの食事療法基準と、正面からぶつかります

日本腎臓学会『CKD診療ガイド2024』第8章 栄養の、ステージ別のたんぱく質基準です。

ステージ(GFR) たんぱく質 g/kgBW/日
ステージ1(≧90) 過剰な摂取をしない
ステージ2(60〜89) 過剰な摂取をしない
ステージ3a(45〜59) 0.8〜1.0
ステージ3b(30〜44) 0.6〜0.8
ステージ4(15〜29) 0.6〜0.8
ステージ5(<15) 0.6〜0.8
  • 体重は基本的に標準体重(BMI=22) を用います。
  • G1〜G2の「過剰」の目安としては、1.3 g/kg体重/日が挙げられています。
  • G3b以降は、腎臓病療養指導を含む医療チームの管理下が望ましいとされています。

お気づきかと思います。高たんぱくを推奨する筋肉の話と、CKDの食事療法基準は、正面からぶつかります。

ただし「高齢者は一律に制限」も、否定されつつあります

ここも両論を書かないとフェアではありません。

  • 日本腎臓学会「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」(2019年7月) では、たんぱく質制限を緩和する場合があるとされています。高齢CKDステージG1〜G2では、心血管疾患リスクの観点から1.5 g/kg体重/日が上限の目安として示されています。
  • SONIC研究(Geriatr Gerontol Int 2022;22(4):286-291) は、日本人高齢者の長期縦断研究(解析1,160名、平均追跡2.53年)で、ベースラインeGFR<60(CKDステージ3以上)の群では、総たんぱく質摂取量と腎機能変化量に正の相関(β=0.98, p=0.02) を報告し、「日本人高齢CKDに一律のたんぱく質制限を適用すべきではない」と結論しています。

つまり、「腎臓が悪い=プロテイン禁止」でもなければ、「高齢だから制限」でもない。 ステージと個別評価による、というのが正直なところです。

だからこそ、自己判断ではなく、医師・管理栄養士に相談するしかありません。数値を知り、専門家と決める。それが遠回りに見えて、いちばん確実だと思います。

なお、エネルギーが足りていない状態でたんぱく質だけ増やしても効果は出にくいことも、CKD診療ガイド2024は明記しています。


サルコペニアの診断基準は、2025年に変わりました

情報を集めていて、これは知らずにいたら危なかったと思ったところです。

サルコペニアの診断基準は、AWGS 2025が最新です(Chen LK, et al., Nature Aging 2025年11月4日公開)。日本サルコペニア・フレイル学会は2025年11月11日付で、「今後のサルコペニアの診断には、AWGS 2019ではなくAWGS 2025を使用してください」と告知しています。

最大の変更は、身体機能(歩行速度など)が診断基準から除外されたことです。

  • 従来(AWGS 2019):低筋肉量+(低筋力 or 低身体機能)
  • AWGS 2025:低筋肉量+低筋力

身体機能は、診断基準ではなくアウトカムとして測定することが推奨されるようになりました。また、WHOの高齢者統合ケア(ICOPE)と統合され、焦点が「サルコペニア」から「Muscle Health(筋の健康)」へシフトしています。

サルコペニアの診断基準をAWGS 2019(低筋肉量+低筋力または低身体機能)とAWGS 2025(低筋肉量+低筋力、身体機能は診断から除外しアウトカムへ)で左右に対比したカード型図解

症例発見の目安としては、こう整理されています。

  • 65歳以上(またはMuscle Healthに懸念のある50〜64歳)
  • 下腿周囲長:男性34 cm未満・女性33 cm未満、指輪っかテスト異常など
  • 握力カットオフ:65歳以上は男性28 kg未満・女性18 kg未満(AWGS 2019と同じ)
  • 50〜64歳のカットオフを新設:男性34 kg未満・女性20 kg未満
  • 握力低下のみなら「サルコペニアの可能性あり(低筋力)」、筋力は正常でも危険因子が陽性なら「サルコペニアのリスクあり」

「量」より「力」のほうが、速く落ちます

これも、書いておきたい数字です。公益財団法人 長寿科学振興財団の資料より。

指標(75歳までの高齢者) 男性 女性
骨格筋量の減少率 年0.80〜0.98% 年0.64〜0.70%
筋力の低下率 年3〜4% 年2.5〜3%

筋「量」は年1%弱しか減らないのに、筋「力」は年3〜4%減る。 この非対称が、「体重は変わらないのに、階段がつらくなった」という実感の正体なんですね。

日本の有病率も見ておきます。東京都健康長寿医療センター研究所(北村明彦ら/J Cachexia Sarcopenia Muscle 2021年2月号) が一般高齢者1,851人を約6年追跡した結果です。

  • 有病率:男性11.5%・女性16.7%
  • 75〜79歳では男女とも約2割、80歳以上では男性約3割・女性約半数
  • サルコペニアになると、死亡・要介護化のリスクがいずれも約2倍

[内部リンク: 関連記事 – 高齢者のサルコペニア|チェックリストと予防法]


「機能性表示食品」は、国のお墨付きではありません

最後に、製品を選ぶ段になったときの話をします。パッケージの読み方、という意味で。

機能性表示食品は、届出制です。 消費者庁の資料(食品表示課「機能性表示食品の今後について」2024年8月)には、こう書かれています。「安全性・機能性の科学的根拠について国の審査は行われず、その合理性の挙証責任は届出者」。

特定保健用食品(トクホ)とは、まったく別の制度なんですね。

特定保健用食品(トクホ) 機能性表示食品
制度 個別許可制 届出制
国の関与 国が効果と安全性を審査 国の審査なし。挙証責任は届出者
公定マーク あり なし
件数(令和6年8月2日時点) 1,039件 6,890件

「機能性が書いてある=国が認めた」ではない。ここは、はっきり分けて読んだほうがいいと思います。

制度は、いま動いている最中です

紅麹事案(2024年3月)を受けて、制度は見直されました。施行日を正確に並べます。

  • 健康被害情報の提供義務化:令和6年(2024年)9月1日 施行。医師が診断した健康被害情報を届出者が収集し、当該食品との因果関係が不明であっても速やかに都道府県知事等および消費者庁長官へ情報提供する義務が課されました。
  • 新規成分の確認手続を60日→120日に延長:令和7年(2025年)4月1日 施行。
  • サプリメント形状食品へのGMP基準の適用:令和8年(2026年)9月1日 実施。

三つめが、いま目の前です。それ以前は、サプリメント形状の食品に対するGMP(製造管理基準)は義務ではありませんでした。

2024年9月1日の健康被害情報の提供義務化、2025年4月1日の新規成分の確認手続60日から120日への延長、2026年9月1日のサプリメント形状食品へのGMP基準適用、2027年4月1日の一般健康診断への血清クレアチニン検査追加を並べた横型タイムライン

そして薬機法(医薬品医療機器等法)上、食品で疾病の治療・予防を標ぼうすることはできません。 「サルコペニアを治す」「腎臓に効く」といった表示・広告があれば、それ自体が制度から外れたサインだと考えていいと思います。

重金属の話は、出典の性格ごと読んでください

もう一つ、よく引用される調査があります。ただし出典の性格を明示したうえで紹介します。

Clean Label Project は、米国の非営利の消費者アドボカシー団体です。2025年1月に公表した調査では、市販プロテインパウダー160製品を第三者認証ラボで検査し、次のように報告しています。

  • 47%が、少なくとも1つの連邦または州の安全基準(カリフォルニア州プロポジション65を含む)を超過
  • 植物性プロテインは、ホエイ由来の約5倍のカドミウム
  • チョコレート味はバニラ味の約110倍のカドミウム
  • オーガニック製品は非オーガニックの鉛3倍・カドミウム2倍

⚠ ここは慎重に読む必要があります。これはアドボカシー団体の調査であり、規制上の違反を意味するものではありません。 Prop 65は「摂取上限」ではなく「警告表示のトリガー値」で、非常に保守的な基準です。業界団体からは方法論への反論も出ています。

そして、日本国内で流通するプロテイン製品の重金属含有量に関する公的な検査データは、今回の調査では確認できませんでした。 ですから「日本の製品はどうなのか」には、私は答えを持っていません。

ただ、「植物性なら安全」という単純な図式は成り立たない。そのくらいは言えると思います。


受診の目安|ここからは自己判断をやめてください

長くなったので、安全のラインだけ、もう一度はっきり書いておきます。

次のようなサインがあれば、自己判断で続けずに受診してください。

  • 急な体重減少
  • むくみ、尿量の変化、泡立つ尿
  • 著しい倦怠感
  • 繰り返す転倒
  • 飲み始めてからの、持続する下痢・腹痛

そして、CKD・糖尿病・肝疾患のある方、服薬中の方は、始める前に必ず主治医や管理栄養士へ。AWGS 2025も、心不全・COPD・糖尿病・慢性腎臓病といった慢性疾患を「評価に移行すべき臨床状態」に挙げています。

サプリメントで健康被害が疑われたときは、まず医師の診断を受けてください。 2024年9月からの制度で、医師が診断した健康被害情報は、事業者を通じて保健所・消費者庁へ届く仕組みができています。声を上げることが、次の誰かを守ることにつながるようになりました。

夕方の日差しが差し込む公園の遊歩道を、二人が並んでゆっくり歩いている秋の風景

Photo: Rain Lü / Pexels

[内部リンク: 関連記事 – シニアの朝ストレッチが大切な理由]


親のために粉を選んでいたあの日の私に、一つだけ伝えられるとしたら、こう言うと思います。

「買う前に、順番を確かめて」。

運動が先で、食事が次。足りない分を補うのは、いちばん最後。そして製品を選ぶよりも先に、腎臓の数値を知ること。順番を入れ替えただけで、やるべきことも、心配すべきことも、まるで違って見えました。

筋「量」が年1%弱しか減らないのに、筋「力」は年3〜4%落ちていく。あの非対称の数字を見たとき、私は少しだけ焦りが薄れたんです。落ちているのは材料ではなく、使う機会のほうかもしれない。 そう思えたからでした。

だから今日は、粉の話をいったん置いて、親と少し歩いてこようと思います。順番の、いちばん最初がそこにありますから。


参考にした情報源

  • 文部科学省 食品成分データベース(日本食品標準成分表 八訂・増補2023年)
  • 厚生労働省『日本人の食事摂取基準(2025年版)』策定検討会報告書(令和6年10月11日公表)/国民健康・栄養調査(2019年度・令和4年)
  • 日本サルコペニア・フレイル学会「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」(2025年11月11日)/Chen LK et al., Nature Aging 2025
  • 日本サルコペニア・フレイル学会『サルコペニア診療ガイドライン2017年版(一部改訂2020年)』
  • 日本腎臓学会『CKD診療ガイド2024』第8章 栄養/「サルコペニア・フレイルを合併した保存期CKDの食事療法の提言」(2019年7月)/日本腎臓病協会
  • 厚生労働省・広島産業保健総合支援センター(一般健康診断への血清クレアチニン検査追加、令和9年4月1日施行)
  • 消費者庁 食品表示課「機能性表示食品の今後について」(2024年8月)/東京都保健医療局(健康食品の監視指導)
  • 公益財団法人 長寿科学振興財団/東京都健康長寿医療センター研究所(J Cachexia Sarcopenia Muscle 2021)
  • 一般社団法人 Jミルク ファクトブック「よくわかる!乳糖不耐」(2020年3月)/MSDマニュアル家庭版(2025年)
  • Ten Haaf DSM et al., Am J Clin Nutr 2018;108(5):1043-1059/Whaikid P & Piaseu N, Epidemiology and Health 2024/Huang Y et al., J Nutr 2025/SONIC研究, Geriatr Gerontol Int 2022;22(4):286-291/ENABLE Study, Nutrients
  • Clean Label Project「Protein Study」(2025年1月)※米国の非営利アドボカシー団体による調査

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的な診断・治療・栄養指導に代わるものではありません。本文中の基準値・数値は公的資料からの引用であり、個人への摂取量の指示ではありません。特定の製品・ブランドを推奨するものでもありません。慢性腎臓病・糖尿病・肝疾患などの持病がある方、服薬中の方、そしてご高齢のご家族にすすめる前には、必ず医師・管理栄養士にご相談ください。

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