炭水化物中毒セルフチェックの前に|診断名ではない理由
正直に申し上げます。私はずいぶん長いあいだ、これを自分の性格の問題だと思っていました。
夕食をきちんと食べ終えて、お腹は確かに満ちている。それなのに三十分もすると、頭のどこかでクロワッサンやマカロンのことを考えているんですね。
空腹ではないのに、食べたい。この二つが同時に成り立つ感じが、どうにも不気味でした。
それで「炭水化物中毒 チェック」と検索して、出てきた項目に片っぱしから当てはめてみたことがあります。ほとんど当てはまりました。ほっとしたような、突き落とされたような、妙な気分になったのを覚えています。
結論から申し上げます。「炭水化物中毒」は、医学的な診断名ではありません。 DSM-5-TR にも ICD-11 にも、その項目は置かれていないのです。
そして、この記事でいちばんお伝えしたいのは、そこから先の話です。
セルフチェックが本当に危ういのは、当てはまってしまったときではありません。実在する病気を「ただの食べぐせ」に見せてしまい、受診が遅れるときです。
この記事では、一次資料をたどりながら、①「炭水化物中毒」という言葉の正体、②実在する診断はどれか、③血糖と食欲の関連はどこまで確からしいのか、④では何をすればいいのか、という順で整理していきます。
Photo: Simão Moreira / Pexels
⚠ 本記事は一般的な栄養・健康情報の提供であり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。ここで紹介する内容は、診断ではなく、ご自身の食習慣を振り返るきっかけとしてお読みください。持病のある方、治療中の方は、自己判断で食事を大きく変えないでください。
「炭水化物中毒」という診断名は、どこにも存在しません
まず、言葉の身元を確かめておきます。
「炭水化物中毒(carbohydrate addiction)」は、DSM-5-TR にも ICD-11 にも、診断項目として収載されていません。研究の世界で使われる「フードアディクション(food addiction)」という概念も、DSM-5 の診断カテゴリには含まれていないと、複数の査読論文がはっきり書いています。
つまり、記事やSNSで見かける「あなたは炭水化物中毒かもしれません」という言い方は、存在しない病名で診断していることになるんですね。
ついでに、もう一つ。よく併記される「ドーパミン中毒」という言い方も、医学の用語としては存在しません。
理由もはっきりしています。2023年の総説(Frontiers in Behavioral Neuroscience)は、乱用薬物は特定の脳内受容体のアゴニストとして報酬系に直接作用するが、食物はそうではないと述べています。加えて、糖に対するドーパミン応答は反復して食べるうちに減弱していくことも報告されています(Westwater 2016, European Journal of Nutrition)。薬物ではこの減弱が起きません。
「甘いものは脳の報酬系を刺激する」ところまでは言えます。けれど「薬物依存と同じ状態になる」とは言えない、ということです。
YFASは「診断ツール」ではなく、研究用の尺度です
フードアディクションを測る質問紙として、Yale Food Addiction Scale(YFAS 2.0)が広く使われています。ネット上のセルフチェックの多くも、これを下敷きにしています。
ただし、ここは誤解されやすいところなのですが。
フードアディクション自体が診断カテゴリではないので、YFASのスコアも診断ではありません。 これは尺度を検証した論文自身が明記していることです。
日本語版(J-YFAS 2.0)の検証研究も見ておきます。対象は日本の大学生731名(女性78.5%、平均年齢20.8歳)。YFAS 2.0 の基準に該当したのは3.3%(24名)で、該当者は全員女性でした(Khine ら, Nutrients 2019)。
⚠ ここで大事なのは、これが大学生のサンプルであって、日本の一般人口の有病率ではないということです。「日本人の3.3%が炭水化物中毒」と読み替えるのは誤りになります。
専門家のあいだでも、決着していません
概念そのものへの評価も割れています。
Fletcher と Kenny による討論論文(Neuropsychopharmacology 2018;43:2506)では、二人の立場がはっきり分かれました。
- Fletcher(否定側) — 薬物依存を定義づける特徴の多くが、摂食行動には見られない。動物モデルは生態学的妥当性を欠いている。
- Kenny(肯定側) — 食物と薬物には共通する神経基盤がありうる。脂肪と糖の組み合わせが報酬回路に生理的範囲を超えた刺激を与え、動機づけ回路を脱制御する。
砂糖依存についての批判的総説(Westwater 2016)は、さらに踏み込んで「ヒトにおける砂糖依存を支持する証拠はほとんど見出せない」と結論しています。動物で依存に似た行動が出るのは「間欠的アクセス+摂食制限」という極端な実験条件下であり、通常のヒトの食生活を反映していない、というのがその理由です。
つまり、専門家が意見を戦わせている最中の概念を、私たちは日常語として断定的に使ってしまっている、ということになります。
セルフチェックがいちばん危ういのは、ここです
ここからが、この記事の本題です。
「炭水化物中毒」は診断名ではない。では、実在する診断はないのかというと、あります。
むちゃ食い症(過食性障害/Binge Eating Disorder)と神経性過食症です。どちらもDSM-5-TRに診断基準があり、治療法も確立しています。
そして、ここが怖いところなのですが。
存在しない病名のセルフチェックが、実在する病気を「ただの食べぐせ」に見せてしまうことがあります。 「私は炭水化物中毒だから、意志の力でなんとかしよう」と考えている期間が、そのまま受診の遅れになるわけです。
むちゃ食い症(過食性障害)の診断基準
MSDマニュアル プロフェッショナル版に掲載されているDSM-5-TRの基準を、要点だけ挙げます。
必須の条件
- 3か月にわたり、少なくとも平均して週1回のむちゃ食いがみられる
- そのあいだ、摂食をコントロールできないという感覚がある
加えて、次の5項目のうち3つ以上
- 通常より速く食べる
- 不快なほど満腹になるまで食べる
- 身体的な空腹がないときに大量に食べる
- 恥ずかしさから一人で食べる
- 過食後の自己嫌悪・抑うつ・罪悪感
代償行動(自己誘発性嘔吐、下剤や利尿薬の乱用、過度の運動、絶食)がないことで、神経性過食症と鑑別されます。そして患者さんは、この状態に苦痛を感じています。
治療については、認知行動療法(CBT)に最も証左があるとされています。ほかに対人関係療法があり、薬物療法が選択されることもあります。
つまり「意志でどうにかする問題」ではなく、治療の対象なんですね。
⚠ 日本の過食性障害の有病率は、公的な情報源で確認できませんでした。海外の数値をそのまま「日本では」と書くわけにはいかないので、ここでは書きません。なお日本の神経性過食症については1998年の厚生省研究班の調査(年間6,500人、人口10万対4.3〜5.9)が引用されますが、受診者ベースで、かつ非常に古い数字です。最新の全国推計は公表されていません。

次のどれかに当てはまるなら、セルフケアより相談を
自己判断で食事を変える前に、専門家に相談していただきたい状態があります。
- 短時間に大量に食べ、その間「止められない」感覚があるエピソードが、3か月以上、平均して週1回以上続いている
- 過食のあとに嘔吐・下剤や利尿薬の使用・絶食・過剰な運動をしている(より早い受診が必要です)
- 食べたあとの強い自己嫌悪や抑うつで、生活や仕事・学業に支障が出ている
- 恥ずかしさから隠れて食べるようになっている
- 体重や体型のことが頭から離れず、自己評価がそれに大きく左右される
- 気分の落ち込みが続く/死にたい気持ちがある(迷わず下記の窓口へ。24時間対応があります)
相談先
- かかりつけ医・心療内科・精神科
- 摂食障害「相談ほっとライン」 047-710-8869(火〜金 9:00〜15:00、休日・年末年始・お盆を除く。現在、水曜日はしばらく休止中です)
- お住まいの都道府県の精神保健福祉センター
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
- 緊急時は #いのちSOS 0120-061-338(24時間)/よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
摂食障害支援拠点病院が設置されている都道府県もあります。最新の設置状況は摂食障害全国支援センターでご確認ください。

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血糖が落ちると食べたくなる、は本当か
さて、ここでようやく「血糖」の話に入ります。
よく説明されるのは、こういう筋書きです。精製された糖質で血糖が急上昇し、そのあと急降下する。その落ち込みが空腹感を呼び、また甘いものが欲しくなる——。
この方向性を報告した研究は、確かにあります。ただ、実際の中身は、思っているよりずっと歯切れが悪いんですね。
1,070人のCGM研究が示したこと
代表的なのが、Wyatt ら 2021年(Nature Metabolism)の研究です。
英国の探索コホートと米国の検証コホート、合わせて1,070名の健常者に持続血糖測定(CGM)を装着し、標準化食8,624回・自由摂食71,715回を記録しました。主解析は763名(英国685名+米国78名)です。
結果はこうでした。食後2〜3時間の血糖のディップ(落ち込み)は、ピーク血糖や血糖iAUCよりも、そのあとの主観的空腹感と摂取エネルギーをよく予測した。
ここだけ読むと、筋書きどおりに見えます。
⚠ ところが、米国の検証コホートでは再現されませんでした
同じ論文の中身を、コホート別に並べてみます。
| アウトカム | 英国 探索コホート | 米国 検証コホート(n=78) |
|---|---|---|
| 2〜3時間の空腹感の増大 | r = 0.16、P < 0.001(有意) | r = 0.12、P = 0.315(非有意) |
| 次の食事までの時間が短い | r = −0.14、P < 0.001(有意) | r = −0.16、P = 0.160(非有意) |
| 3〜4時間後の摂取エネルギー増 | r = 0.19、P < 0.001(有意) | r = 0.24、P = 0.032(有意) |
| 24時間の摂取エネルギー増 | r = 0.27、P < 0.001(有意) | r = 0.21、P = 0.065(非有意) |
米国の検証コホートで有意だったのは、3〜4時間後の摂取エネルギーだけでした。空腹感も、次の食事までの時間も、24時間の摂取量も、非有意です。
しかも英国側の相関も、r = 0.16〜0.27。説明できる分散にすると、およそ3〜7%にすぎません。弱い相関です。年齢・性別・BMI・体重で調整すると、英国の空腹感の相関は r = 0.12 まで縮み、米国では符号すら逆転しました。
もう一点、誠実に添えておくべきことがあります。この研究の出資元である Zoe Global 社について、論文自身が「研究設計・データ収集・解析に直接関与した」と明記しています。同社は個別化栄養の商用サービスを提供する企業です。著者にも同社の従業員・顧問が複数含まれます。
研究がだめだ、という話ではありません。数値を使うなら、この背景も一緒に置いておくのが誠実だということです。
⭐ そして、クロワッサンやマカロンでは予測が成り立ちませんでした
ここは、この記事の前提をいちばん揺らす事実です。省くわけにいきません。
同じ研究には、標準化朝食の種類ごとの下位解析があります。そのうち「高炭水化物(マフィン)」の群では、血糖ディップは3〜4時間後の摂取エネルギーと有意に関連しませんでした(r = 0.04, p = 0.349)。
高炭水化物のマフィン。まさに、この記事のタイトルに出てくるクロワッサンやマカロンに近い食べものです。
その当の食品で、「血糖の落ち込み → 食べすぎ」という機序は、何も予測しなかったことになります。
反応性低血糖の人でも、空腹感の差は出ませんでした
もう一つ、別の角度からの報告です。
Sweatt ら 2026年(Nutrients)は、健常者69名のうち19名(27.5%)を反応性低血糖に分類しました。そして限界の記述として、こう書いています。「血糖がより低かった群で、より強い空腹は検出されなかった」。
ただし著者自身が、対象群のサンプルサイズが小さく(計画25名に対し19名)、群間差を検出する力が不足していた可能性を認めています。断定に使える否定の証拠ではありません。
同じ論文は、「70 mg/dL未満」といった単一の閾値で反応性低血糖を定義するやり方を批判し、血糖の下降速度を重視すべきだと提案しています。つまり、反応性低血糖という概念自体が、まだ定義の途上なんですね。
この節の落としどころ
言えることを、慎重に書きます。
精製された糖質で血糖が上がって下がる。その下がり方が大きい人ほど、そのあと空腹を感じやすく、食べる量が多い傾向がある。この方向性は1,000人規模の研究で報告されています。ただし相関は弱く、米国の検証コホートでは再現されず、出資企業が設計・解析に関与し、反応性低血糖の人でも空腹感の差が出なかった研究があります。
「誰にでも必ず起こる法則」ではありませんし、「症状」でも「疾患」でもありません。
「これがあなたの食べすぎの正体です」と言い切れる段階には、まだないのです。
「偽の空腹」ではなく、「渇望」と呼んだほうが正確です
ここで用語を一つ、置き換えておきます。
いわゆる「偽の空腹」という言い方をよく見かけますが、これは俗語であって、正確ではありません。
研究で測定されているのは self-reported hunger(主観的な空腹感)です。本人が実際に感じている感覚を「偽物」と断じるのは、科学的にも不正確ですし、読んだ人を否定する物言いにもなってしまいます。
代わりに使える区別があります。
- 恒常性の空腹(homeostatic hunger) — エネルギーが足りないことに基づく、生理的な摂食の駆動
- 快楽性の食欲・渇望(craving) — カロリーの必要がない状態での、快感を目的とした食欲。「特定の食べものに対する強い欲求」と定義され、一般的な空腹とは別の概念です
ヒトの食行動は、この二つの動的なやりとりで制御されています。
ですから、夕食のあとにマカロンが浮かぶあの感じは、「偽物の空腹」ではありません。
「お腹が空いた」ではなく、「これが食べたい」という渇望です。名前が変わるだけで、少し扱いやすくなる気がしませんか。

では何をすればいいのか ── 「断つ」ではなく「添える」
ここまで否定ばかり続いたので、実践の話に移ります。
先に結論を申し上げます。根拠が最も強いのは「炭水化物を断つ」ではなく、「炭水化物に、食物繊維とたんぱく質を添える」ほうです。
等エネルギーの朝食5種を並べてみると
さきほどの Wyatt 2021 には、標準化朝食ごとの平均値をまとめた表(Table 1)があります。論文のプロトコルは「OGTT(ブドウ糖負荷)と6つの等エネルギー食」と書かれているので、食事どうしの比較が成立するのは、下の混合食5種のあいだだけです。
| 標準化朝食 | 血糖のディップ 2-3h | 空腹感の変化 2-3h | 次の食事までの時間 | 3-4hの摂取 | 24hの摂取 |
|---|---|---|---|---|---|
| 高たんぱく | 4%(最小) | −16 | 272分 | 163 kcal | 2,231 kcal |
| 高炭水化物(マフィン) | 5% | −12 | 273分 | 156 kcal | 2,189 kcal |
| 高食物繊維 | 6% | −18(最良) | 277分(最長) | 134 kcal | 2,237 kcal |
| 英国平均食 | 6% | −11 | 272分 | 131 kcal(最少) | 2,182 kcal(最少) |
| 高脂質 | 8%(最大) | −10(最下位) | 264分(最短) | 197 kcal(最多) | 2,267 kcal(最多) |
※空腹感の変化は、数値が小さいほど空腹が増えにくかったことを示します。
読み取れる傾向を、順に書きます。
① 食物繊維がいちばん広く支持されています。 空腹感の変化 −18 で最も良く、次の食事までの時間 277分も最長でした。3〜4時間後の摂取量も2番目に少ない。読者が実際に体感するのは「満腹感」と「持ちのよさ」ですから、実用的にはここがいちばん効いてくるところだと思います。

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② たんぱく質も支持されます。 血糖のディップは4%で5種のうち最小、空腹感の変化も −16 で2番目でした。
③ ⛔ そして、脂質は「効かない」のではなく、逆でした。 高脂質の朝食は、上の5指標すべてで最下位です。ディップ8%、空腹感の変化 −10、次の食事まで264分、3〜4時間後の摂取197 kcal。24時間の摂取2,267 kcal は、OGTTを含めた研究全体で最も多い数字でした。
よく見かける「脂質を足せば血糖の急降下を抑えられる」という説明は、少なくともこの表からは支持されません。私も長いこと信じていたので、この行を書き写しながら少し気まずくなりました。
⚠ この表に必ず添えるべき但し書きが3つあります。省けません。
- OGTT(ブドウ糖飲料)は、他の食事と等エネルギーではありません。 ですから24時間摂取量の比較は、上の混合食5種のあいだでのみ有効です。
- この表には、食事タイプ間の有意性検定がありません。 平均値と標準偏差だけです。ですから「有意に優れていた」とは書けません。すべて記述的な観察です。
- 標準偏差が、食事間の差を圧倒しています。 3〜4時間後の摂取は平均が131〜269 kcal の範囲なのに、標準偏差は220〜286 kcal。平均の差の全幅より大きいのです。次の食事までの時間も、平均の差36分に対して標準偏差は79〜134分。
だから「食物繊維が最も優れていることが証明された」とは書けません。「そういう傾向が観察された」までです。
⭐ 順位が一致しないこと自体が、機序の弱さを示しています
この表には、もう一つ面白いところがあります。
もし血糖のディップが食欲を支配しているのなら、ディップの順位と食欲の順位は一致するはずです。ところが、一致しません。
- 高食物繊維は、ディップでは3位なのに、空腹感でも持続時間でも1位でした。
- 高炭水化物は、ディップでは2位(良好)なのに、空腹感は3位です。
血糖の落ち込みだけで食欲が決まるのなら、こうはならないはずですよね。
これは、米国コホートでの非再現とも、マフィン群の帰無所見とも独立した、「機序は弱い」ことのもう一つの証拠だと考えられます。

日本の数字が示しているのは、「足りていない側」でした
実践の話を、日本の実態に接続します。
まず、前提を一つ壊しておきます。
「日本人は炭水化物を摂りすぎている」という言い方は、統計の上では成り立ちません。
令和5年の国民健康・栄養調査(1歳以上、n=5,305)によれば、炭水化物エネルギー比率は56.0%。日本人の食事摂取基準(2025年版)の目標量は50〜65%エネルギーですから、ちょうど範囲の内側です。
一方で、はっきり足りていないものがあります。
食物繊維の摂取量は、1日17.8g。 食事摂取基準(2025年版)の目標量は、18〜29歳で男性20g以上・女性18g以上、30〜64歳では男性22g以上とされています。届いていません。
ここが、さきほどの表ときれいにつながります。血糖の落ち込みを恐れて炭水化物を減らすより、足りていない食物繊維を足すほうが、日本の食卓では理にかなっているわけです。
菓子類についても、数字の読み方に注意が要ります。
| 項目 | 平均値 | 中央値 |
|---|---|---|
| 菓子類 | 25.0 g/日(標準偏差 43.1) | 0 g |
| 砂糖・甘味料類 | 6.5 g/日 | 3.5 g |
⚠ 平均25.0gに対して、中央値は0g。 つまり「食べない日」が半数以上あり、食べる人・食べる日は多く食べるという、強く偏った分布です。「日本人は毎日25gのお菓子を食べている」と読むのは誤りになります。
なお糖類については、食事摂取基準(2025年版)は推定平均必要量・推奨量・目安量・耐容上限量・目標量のいずれも設定していません。 理由は、日本食品標準成分表に糖の成分が収載されたのが比較的最近で、いまも成分が特定されていない食品が多く、摂取量の把握が難しいためだと説明されています(2020年版の解説より)。
国際的な目安としては、WHOが2015年に、遊離糖類を総エネルギーの10%未満(強い推奨)、可能なら5%未満(条件付き推奨、成人で約25g/日)に抑えるよう勧告しています。遊離糖類には、添加された糖のほか、蜂蜜・シロップ・果汁に天然に存在する糖も含まれます。

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アーモンドに置き換える、は半分だけ正しい
甘いものの置き換えとしてよく挙がるアーモンドについても、両方の結果を並べておきます。
血糖応答が低いことは、一貫しています。 100名を対象にした急性クロスオーバー試験(Brown ら, IJERPH 2021)では、アーモンド42.5gは等エネルギーの甘いビスケットに比べ、食後血糖のiAUCが有意に低く(差53 mmol/L·min、P < 0.001)、そのあとの摂取エネルギーも低い結果でした(−638 kJ、P = 0.035)。
ところが、より規模の大きい試験では食欲に差が出ませんでした。
140名(BMI 30.7)を対象にしたランダム化比較試験(Carter ら, European Journal of Nutrition)では、アーモンドと等エネルギーの炭水化物系スナックバーを比べて、主観的な食欲に差はなく、そのあとの総エネルギー摂取量にも差がありませんでした(P = 0.286)。食欲調節ホルモンには差が出ています(C-ペプチド −47%、グルカゴン +39% など)が、食べる量は変わらなかったわけです。
⚠ しかもこの試験は、カリフォルニア・アーモンド協会の資金で行われています。業界資金の試験ですら差が出なかった、という点は踏まえておくべきだと思います。
2つの試験は、対象者のBMIも、比較した食品も、評価時間も違います。ですから「アーモンドに替えれば食欲が抑えられる」とは書けません。差が出た試験と、出なかった試験があるというのが、いまの正確な状態です。
エネルギーの話には、「形」の但し書きがつきます
アーモンドについては、もう一つ知られた研究があります。
健康成人18名を対象にした2012年の研究(Novotny ら, AJCN)で、全粒アーモンド28gの実測エネルギーは129 kcal。表示から想定される約170 kcal より低い、という結果でした。
ただし、この「割引」は加工すると消えます。
同じ研究グループによる2016年の報告(Gebauer ら, Food & Function、健康成人18名の5期クロスオーバー)では、形状ごとの代謝可能エネルギーがこうなりました。
| アーモンドの形状 | 実測エネルギー |
|---|---|
| 全粒・生 | 4.42 kcal/g |
| 全粒・ロースト | 4.86 kcal/g |
| 刻み | 5.04 kcal/g |
| アーモンドバター | 6.53 kcal/g(Atwater予測と同等) |
つまり、細かくするほど吸収されるエネルギーが増え、ペースト状にすると割引はなくなります。
ですから「アーモンドは表示よりカロリーが低い」とだけ書くのは、正確ではありません。丸のままの粒に限った話であり、アーモンドバターやアーモンドパウダーには当てはまらないのです。

⚠ そして当然ですが、「カロリーゼロ」でも「食べても太らない」でもありません。ナッツ類はアレルギーの原因になります。 既往のある方は摂取しないでください。
関連記事:夜の間食の選び方と、翌朝のむくみの話
今日から試せることを、3つだけ
長くなったので、実際に持ち帰れる形に絞ります。
- 炭水化物を「減らす」より、「添える」を先に試す。 ごはんやパンをやめるのではなく、その食事に食物繊維(豆類・海藻・根菜・雑穀・野菜)とたんぱく質を一品足す。日本の食卓で足りていないのは、そちら側です。
- 「お腹が空いた」なのか「これが食べたい」なのかを、一度だけ言葉にしてみる。 渇望と空腹は別のものです。名前をつけるだけで、扱い方が変わることがあります。
- 脂質を足して血糖を安定させる、という方法は採らない。 少なくともこの研究の表では、5つの指標すべてで最も成績が悪かったのは高脂質の朝食でした。
そして、これは実践より大切なことです。
特定の食品群を全部やめる方法は採らないでください。 食事摂取基準(2025年版)は炭水化物50〜65%エネルギーを目標量としています。全面排除はこの基準に反しますし、摂食症のリスクにもなります。
食物繊維を急に大量に増やすと、お腹の張りやガス、下痢が起こることもあります。少しずつ増やして、水分を一緒にとってください。
この記事で書けなかったこと
正直に添えておきます。この分野では、書けないことを明示するのが誠実さだと思っていますので。
- ICD-11の具体的なコード番号 — 一次情報で直接確認できませんでした。
- 日本の過食性障害(BED)の有病率 — 公的な情報源に記載がなく、確認できませんでした。海外の数値を「日本では」と書くわけにはいきません。
- アーモンドの長期(1年間)比較試験の結果 — 本文を取得できず、結果は確認できていません。「1年間の比較試験も行われている」という事実の言及までにとどめます。
- 令和6年(2024年)調査の食品群別数値 — 本記事の数値はすべて令和5年調査のものです。
- 「甘い渇望を止める食材」の類 — 直接の根拠が確認できたものは、ありませんでした。
書かない、というのも一つの結論です。
調べ終えて、いちばん手ごたえが残ったのは、実は食べものの話ではありませんでした。
「これは中毒だ」という説明が、どれだけ落ち着くか、ということでした。
名前がつけば、輪郭ができます。輪郭ができれば、戦う相手がはっきりします。あのとき検索していた私は、たぶんその一文が欲しかったのだと思います。
けれど、その病名はどこにも存在しませんでした。代わりに見つかったのは、実在する診断と、その治療法と、電話番号でした。それから、17.8gと20gのあいだにある、食物繊維のささやかな差です。
夕食のあとにマカロンが浮かぶこと自体は、なくならないかもしれません。それでいいのだと思います。
大事なのは、その渇望を自分の性格の欠点として名づけてしまわないことだったのですから。
参考資料:Wyatt P ら(Nature Metabolism 2021;3:523–529)、Sweatt SK ら(Nutrients 2026)、Khine MT ら(Nutrients 2019;11(3):687/J-YFAS 2.0)、Fletcher PC & Kenny PJ(Neuropsychopharmacology 2018;43:2506)、Westwater ML ら(European Journal of Nutrition 2016)、Frontiers in Behavioral Neuroscience 2023;17:1240748、Brown R ら(IJERPH 2021;18(20):10989)、Carter S ら(European Journal of Nutrition/n=140、カリフォルニア・アーモンド協会資金)、Novotny JA ら(AJCN 2012)、Gebauer SK ら(Food & Function 2016)、Brain Sciences 2022;12(4):431、厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」、厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査」(e-Stat 統計表)、WHO 遊離糖類ガイドライン(2015年)、MSDマニュアル プロフェッショナル版「むちゃ食い症」、摂食障害全国支援センター、厚生労働省「まもろうよ こころ」。2026年8月時点の整理です。
※本記事は一般的な栄養・健康情報の提供を目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的としたものではありません。「炭水化物中毒」は医学的な診断名ではありません。 本記事の内容は診断ではなく、ご自身の食習慣を振り返るきっかけとしてご利用ください。食事内容を大きく変える場合(特に糖質を大きく減らす、特定の食品群をやめる)は、糖尿病・低血糖症の方、妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さん、摂食症の既往がある方は、必ず医師・管理栄養士にご相談ください。 血糖降下薬やインスリンを使用中の方は、低血糖の危険があります。ナッツ類はアレルギーの原因になります。既往のある方は摂取しないでください。 本記事は特定の商品・ブランドを推奨するものではなく、ここで挙げた食品は食品であって医薬品ではありません。効果には個人差があります。
