夜のこむら返りと下肢静脈瘤 — 弾性ストッキングの前に
正直に言いますと、私はずっと「夜中に足がつるのは、水分かミネラルが足りていないから」だと思っていました。
立ち仕事の人が「毎晩ふくらはぎがつる」と言えば、まわりも「静脈瘤じゃないの」と返す。そんな会話も何度か聞いたことがあるんですね。ところが、下肢静脈瘤とこむら返りについて日本静脈学会のガイドライン本文を読みにいってみると、そこに書かれていたのは、もう少し慎重で、もう少し複雑な話でした。
先に結論をお伝えします。
夜のこむら返りの大半は、原因のはっきりしない特発性です。 下肢静脈瘤は「原因のひとつ」ではあっても、こむら返りだけで決めつけられるものではありません。そして——ここがいちばん大事なのですが——弾性ストッキングは、脚の動脈の状態を確認せずに始めてよいものではありません。
⚠️ この記事は一般的な情報提供であり、診断・治療の代わりにはなりません。症状がある場合は血管外科・心臓血管外科などの医療機関にご相談ください。なお本記事が参照した日本静脈学会『静脈疾患における圧迫療法ガイドライン2024』はパブリックコメント用原稿として公開されていたものです。最終確定版で細部の数値が変わっている可能性があります。
夜中に足がつる原因は、大半が「わかっていない」
まず、こむら返り(夜間下肢けいれん)そのものの実像からです。
米国家庭医学会(AAFP)のレビューによれば、有病率は成人の50〜60%。米国NHANESを用いた別の研究では約30%とされています。調査によって幅はありますが、成人のおよそ3〜6割が経験するありふれた症状だと考えてよさそうです。加齢とともに増えていきます。
そして、その機序は不明です。
AAFPは、こむら返りの原因は筋疲労と神経機能の異常である可能性が高いとしたうえで、こう明記しています。運動関連のけいれんも夜間のけいれんも、カリウム・ナトリウム・マグネシウムなどの電解質の異常とは関連づけられていない、と。肝硬変患者を対象にした研究でも、カルシウムやマグネシウム、亜鉛、グルコースとの相関は認められませんでした。
「水分とミネラル不足が原因」——よく言われる話ですが、根拠は確立していないんですね。私自身の思い込みも、ここで一度崩れました。

一方で、こむら返りに関連する病態として挙げられているものはあります。末梢血管疾患、冠動脈疾患、肝硬変、血液透析、末梢神経障害、腰部脊柱管狭窄症、静脈不全、妊娠、変形性関節症など。NHANESの研究では、入眠困難・中途覚醒・熟眠感のなさ・日中の眠気と強く関連していました。睡眠を削られている、という実感は正しいわけです。
なお、服用中の薬が関係することがあります。 ただし自己判断で中止せず、処方医や薬剤師に相談してください。
下肢静脈瘤とこむら返りは、どこまで関係があるのか
ここが本題です。結論から言えば、「関係ゼロ」でも「イコール」でもありません。
学会は、こむら返りを静脈瘤の症状として正式に挙げている
下肢静脈瘤は、皮膚に近い表在静脈の逆流防止弁(静脈弁)の不全によって血液が逆流・うっ滞し、静脈が拡張・屈曲・蛇行する状態です。深いところの静脈の病気(深部静脈血栓症)とは別ものだ、という点はまず押さえておきたいところです。
日本静脈学会のガイドラインは、下肢静脈瘤の症状として「下肢の重さ、だるさ、こむら返り、かゆみ、浮腫、疼痛、不快感」を挙げています。血管内焼灼術(ETA)の適応条件にも「下肢静脈瘤による症状(易疲労感、疼痛、浮腫、こむら返り等)があるか、うっ滞性皮膚炎を伴っている」と明記されています。
つまり、こむら返りは学会が公式に認める静脈瘤の症状のひとつです。ここは無視できません。
ところが、同じ学会が「飛躍」をはっきり否定している
同じETAガイドラインの本文には、こう書かれています。
「これらの症状が必ずしも下肢静脈瘤に起因するとは限らず、整形外科疾患など他の原因による症状であることも多い。」
さらに、患者向けパンフレット(2020年11月)の記述が、私にはいちばん決定的に思えました。
「足のだるさ、むくみ、こむら返り、皮膚炎は、静脈瘤と関係ない内科、整形外科、皮膚科などの他の病気でもおこります。症状がでた原因が静脈瘤でない方は手術をしても症状は良くなりません。」
症状の一覧に載っている。でも、載っているからといって、その症状の原因がそれだとは限らない。学会は自分で挙げたリストに、自分で注釈をつけているわけです。
研究のほうも、割れています
支持する側では、静脈瘤患者は一般人口より筋けいれんの頻度が高いという観察研究があります(因果ではなく併存として読むべきものです)。また2025年に発表されたむずむず脚症候群(RLS)と慢性静脈不全症(CVI)の系統的レビューでは、10研究のうち7研究で正の関連が報告され、表在静脈の焼灼後にRLS症状が85.9%で消失したという報告も含まれていました。
⚠ ただし、RLSはこむら返りとは別の病態です。 ここを混同してはいけません(後述します)。
否定する側では、AAFPが「静脈不全に関する研究は、静脈不全の治療がけいれんを軽減することを示せていない」と明記しています。
私なりの着地点はこうです。
こむら返り「だけ」を根拠に静脈瘤と決めつけない。ただし、脚に浮き出た血管・夕方の重だるさ・むくみが揃うなら、超音波検査で確かめる価値はある。
「男性に多い病気」ではありません — 数字が示すこと
ここで、私自身が持っていたもうひとつの誤解を訂正しておきます。
下肢静脈瘤は、男性に多い病気ではありません。
愛媛大学公衆衛生学が2005年に40歳以上9,123人を対象に行った調査では、有病率は全体8.6%、男性3.8%・女性11.3%でした。国内には1,000万人以上いると推計されています。国立循環器病研究センターも「女性が男性の2〜3倍多い」と記載しています。
女性のほうが、はっきり多いのです。
それでも「立ち仕事の男性」に読んでほしい理由
では、なぜ男性の健康というくくりで書くのか。切り口は「性差」ではなく、「長時間立位という職業曝露」にあります。
韓国の労働者2,165人を対象にした研究(Ergonomics, 2012)が示唆的でした。長時間立位で静脈瘤のオッズ比は男女ともに有意に上昇した。ところが、夜間こむら返りのオッズ比が有意に上がったのは、長時間立位の男性労働者だけだったのです。論文の結論は「職場での長時間立位は、男女の生物学的な差より重要なリスク因子でありうる」というものでした。
日本静脈学会も、静脈性潰瘍の原因として「飲食業や販売業などの長時間の立ち仕事」を明示しています。日本皮膚科学会も、一次性静脈瘤では立ち仕事や足に力を入れるスポーツ歴のあることが多い、と記載しています。

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調理、販売、警備、製造、理美容、医療現場。一日の大半を立って過ごす仕事は、思っている以上に多いんですね。「静脈瘤は女性の病気」という通念が、こうした働き方をしている男性を、症状から遠ざけている面はあるのかもしれません。
なお、ここは私の推測です。「男性のほうが受診が遅れる」という日本のデータは、今回のリサーチでは確認できませんでした。
⚠ 弾性ストッキングを買う前に、必ず確認すること
この記事でいちばんお伝えしたいのが、ここです。
弾性ストッキングは「誰でも買っていいもの」ではありません。
日本静脈学会の圧迫療法ガイドラインは、こう書いています。圧迫療法は適切に施行すれば糖尿病や下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)の患者でも安全で有効だが、進行したLEAD患者では皮膚軟部組織の損傷や壊疽から下肢切断に至る可能性がある、と。
日本で実際に起きたこと
抽象的な警告ではありません。ガイドラインには、国内で起きた事故がそのまま記載されています。
日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業では、2011〜2016年の6年間に、手術時の静脈血栓塞栓症予防のための圧迫療法によって下肢虚血症例が4例報告された。最終的に2例で下肢切断に至った。4例とも下肢閉塞性動脈疾患を併存した患者であったにもかかわらず、術前に適切な動脈血行評価がされていなかった。
4例中2例が切断。そして4例とも、動脈の評価がされていなかった。

読んだとき、少し背筋が寒くなりました。「むくみ対策に締めつけておこう」という発想が、条件によっては真逆に働くということですから。
数値の基準
ガイドラインが示している基準を整理します。
| 指標 | 基準 | 扱い |
|---|---|---|
| 収縮期足関節圧 | 60mmHg未満 | 弾性ストッキングによる持続的圧迫は禁忌 |
| 足趾圧 | 30mmHg未満 | 同上(禁忌) |
| ABI(足関節上腕血圧比) | 0.9未満 または 1.3超 | 適応を慎重に判断し、専門医に相談することが望ましい |
| ABI 0.6〜0.8 | — | 適応や圧迫圧の選択について現状では結論が出ていない |
そして、開始前にやるべきこととして、こう明記されています。足背動脈および後脛骨動脈の拍動をチェックし、必要があればABIを測定すべきである。慢性腎不全、糖尿病の患者では、足趾上腕血圧比の測定が望ましい、と。
糖尿病そのものは禁忌ではありません。ただし血行障害が生じやすく、神経障害のために発赤や食い込みが起きても発見が遅れがちなので、慎重な使用が望まれるとされています。
心不全は、かつては禁忌とされましたが、近年は「ただちにすべてが禁忌とはみなされなくなっている」。急性期で腫脹が強い深部静脈血栓症や、皮膚の炎症性・化膿性疾患も慎重適応です。禁忌の線引き自体が、いま流動的なんですね。
ずり落ちと丸まりが、いちばん危ない
もうひとつ、意外に知られていない話を。
ストッキングのずり落ち・上端の丸まりは、それ自体が神経障害の原因になります。総腓骨神経は腓骨頭の周囲を巻くように皮下を走行するため圧迫で損傷されやすく、重症の場合は下垂足(drop foot)をきたします。ガイドラインは原因を「不適切なサイズ選択、ストッキング上端のずれおよび/または丸まり等による締め付け」と明記しています。通常は圧迫療法後数時間以内に現れ、約3週間から6ヵ月で回復するとされています。
MDRPU(医療関連機器圧迫創傷)についての説明も、腑に落ちる表現でした。
「圧迫療法は本来なら『面』で圧迫するものであるが、シワなどにより『線』で押さえると局所的に圧迫圧が上昇して組織損傷を引き起こす。」
「きつければ効く」ではないのです。むしろシワと丸まりが、局所圧を跳ね上げます。
「何mmHgを買えばいい?」には答えられません
日本での圧迫圧の等級は、次のように整理されています。
| 区分 | 圧迫圧(足関節部) | 主な用途 |
|---|---|---|
| 軽度圧迫圧 | 20mmHg未満 | 深部静脈血栓症の予防 |
| 弱圧 | 20〜29mmHg | 下肢静脈瘤 |
| 中圧 | 30〜39mmHg | 下肢静脈瘤 |
| 強圧 | 40mmHg以上 | リンパ浮腫、静脈性潰瘍、静脈血栓後症候群 |
ただし⚠ 「Class 1/2/3」という表記には落とし穴があります。 ガイドラインは「同じClassでも生産国によって圧迫圧が異なるため注意が必要」とし、弾性着衣の圧迫圧の分類は世界的に統一されていない、と明記しています。市販品はhPa表記のこともあります(1mmHg=1.33hPa)。
ですので、この記事では「何mmHgのものを買ってください」とは書きません。書けません、というほうが正確です。
日本静脈学会の患者向けQ&Aは、こう述べています。サイズの選択と圧の設定が重要なため、専門医または弾性ストッキングコンダクター(圧迫療法専門のスタッフ)に相談してください、と。サイズは一般に足関節周囲径で決めますが、基準部位は製品ごとに違います。
測って決めるところが治療の本体で、そこは医療者の領域——そう理解しておくのがいちばん安全だと思います。

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圧迫療法は、何に効いて、何に効かないのか
効果の話も、正確に分けておきたいところです。日本静脈学会のガイドラインは、クリニカルクエスチョンごとに推奨クラスとエビデンスレベルを付けています。
| 目的 | 推奨 | 推奨クラス | エビデンスレベル |
|---|---|---|---|
| 慢性静脈疾患の疼痛軽減 | 施行する | I | A |
| 慢性静脈不全症による下肢浮腫の軽減 | 施行する | I | B |
| 静脈性潰瘍の治療 | 施行する | I | A |
| 下肢静脈瘤で無症候性の場合 | 原則的に施行しない | IIa | C |
つまり、症状を軽くすることには強い根拠があります。 痛みにはクラスI・レベルA。むくみにはクラスI・レベルB。ここは疑う余地が小さい。
問題は「進行を止められるか」です。
⚠ 静脈瘤の進行抑制について、根拠は乏しいというのが現在の到達点です。
Cochraneレビュー(2021年、13研究・1,021例)は症状の改善を認め、プラセボストッキングとの比較で浮腫の改善も認めましたが、いずれの研究でも進行予防は検討されていませんでした。Cochrane自身の結論も「有効性については依然として相反する低質のエビデンスしかない」という厳しいものです。
日本静脈学会はさらに、欧州では進行予防目的の着用は推奨されていないこと、米国血管外科学会(SVS)も「長期間の圧迫療法によりCVDの進行予防や改善するエビデンスは示されていない」としていることを挙げています。そのうえで、無症候性の下肢静脈瘤には原則として圧迫療法を施行しない(クラスIIa・レベルC)と推奨しました。
理由も率直です。アドヒアランスは概して低く、不快感・着用の困難さ・外観・皮膚刺激が挙げられている。「弾性ストッキング着用によるQOLの低下を考慮に入れなければならない」——ガイドラインにそう書いてあるのは、少し意外でした。
症状がないのに予防のために履き続ける。それは、いま根拠のある使い方ではないということですね。

脚を上げる・足首を動かす — 位置づけを間違えないために
生活面でできることも、根拠の水準まで含めて書いておきます。
まず、生理学的な裏づけは硬いものがあります。下肢の静脈圧は立位で80〜100mmHg、仰臥位で約10mmHg。そして歩行時には筋ポンプ作用によって0〜20mmHgまで急速に低下します。「脚を上げる」「ふくらはぎを動かす」が理にかなっているのは、この数字があるからです。
日本静脈学会も、患者向けに次のように書いています。
「適度な足首の曲げ伸ばし運動、下肢の挙上、マッサージ等を行います。短時間でよいので、時間をおいて複数回行うのがコツです。」

Photo: Jonathan Borba / Pexels
⚠ ただし、これは学会が示す「日常生活の改善」であって、系統的レビューを経て推奨クラスが付与されたものではありません。 そして「1日◯回」「心臓より◯cm高く◯分」といった具体的な回数・時間・高さの推奨は、日本の学会ガイドラインには見当たりませんでした。 使えるのは「短時間でよいので、時間をおいて複数回」という表現までです。
⚠ もうひとつ、決定的に重要なこと。これらは症状管理であって、根本治療ではありません。 壊れた静脈弁が生活習慣で元に戻る、ということはありません。

見分けたい、他の病気
夜に脚が苦しい。その原因は、静脈だけではありません。
むずむず脚症候群(RLS)は、厚生労働省 e-ヘルスネットによれば、夕方から深夜にかけて下肢を中心に異常な感覚が出て、動かすとすぐ消えるがじっとしていると再び出る、という病態です。中年以降は女性に多く、鉄欠乏性貧血や透析治療中の人に多い。通常の睡眠薬は無効とされています。AAFPは、RLSは「脚を動かしたいという抗しがたい衝動が特徴で、痛みも筋肉の硬直も起こさない」と説明しています。こむら返りは、実際に筋肉が硬く縮むのが目に見えます。
末梢動脈疾患(PAD/閉塞性動脈硬化症)の間欠性跛行は、「少し歩くと足が痛くなり、少し休むとまた歩ける」という症状です。典型的には片脚のふくらはぎ以下、冷感を伴い、脈が触れにくい。検査はABIで、0.90以下で動脈硬化性の血行障害が示唆されます。
⚠⚠ これが、そのまま弾性ストッキングの禁忌に直結します。 脚が冷たい、歩くとふくらはぎが痛くて休むと治る。この二つに心当たりがあるなら、圧迫を始める前に必ず動脈の評価を受けてください。
腰部脊柱管狭窄症による神経性の間欠跛行は、一般に両側性で、殿部から足全体に放散し、前かがみになると改善します。自転車をこぐような前傾姿勢では出にくい、というのも特徴です。
そして、むくみそのものについて。日本静脈学会は「心不全や腎不全、薬の副作用などの静脈の病気以外でもむくみはおこるので、静脈の病気と決めつけないで原因を明らかにすることが重要」と明記しています。
[内部リンク: 関連記事 – 腰部脊柱管狭窄症の症状と運動]
検査で分かること — なぜ超音波が標準なのか
では、確かめる方法は何か。下肢静脈エコー(超音波検査)です。
超音波で見るのは、静脈の中にある逆流防止弁の働き——逆流があるのか、どの範囲にあるのか。あわせて、深部静脈が開存しているか、二次性静脈瘤や静脈奇形ではないかを確認します。二次性静脈瘤の原因は深部静脈血栓症後の後遺症が多いのですが、DVTは臨床症状を欠くことがあり、過去に診断されていないこともあるため、深部静脈の確認が必要になります。
視診も、立位で行うことが重要とされています。臥位では分からないものが、立つと容易に分かることが多いからです。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、超音波検査の推奨は「弱い推奨」となっています。ただし、その理由に注意が必要です。ガイドライン自身が「既に標準的な検査として確立されたものであり、診断のためには必ず行うべき検査である」「確立された検査法であり前向きのRCTが行われることがない」と説明しています。
「弱い推奨」を「重要でない」と読み違えてはいけない、ということですね。
「すぐ手術が必要」と言われたら — 学会自身が出した警告
ここは、この記事でもっとも書いておきたかった部分かもしれません。
日本静脈学会は2020年、患者向けパンフレット「あなたにその手術、本当に必要ですか?」を公開しました。そこにはこう書かれています。
「一部のクリニックや病院で”健康な人(下肢静脈瘤でない人)”や”軽症で治療が必要ない人”に対して血管内焼灼術が行われるようになっています。学会ではこのような治療を”不適切治療”と呼び、すでに医療関係者に対しては注意喚起を行っています。」
なぜ問題なのか。「手術の効果がなく、ただ足に傷がつくだけ」だからです。痛みの原因が静脈瘤でなければ、手術しても痛みは取れません。さらに、手術によってその静脈は機能しなくなるため、将来、心臓や足の動脈の病気になったときにバイパス手術に使う静脈がなくなってしまう、とも書かれています。
そのうえで学会は、セカンドオピニオンを求めるべきサインを挙げています。
- 「すぐに手術が必要」と言われた
- 「血管が太いので手術が必要」と言われた
- 「隠れ静脈瘤」と言われた
- 「放っておくと、取り返しがつかないことになる」と言われた
- 「血栓が飛びやすい」と言われた
- 超音波検査の時間が短い(通常15分以上)
- 一本の足に何度も手術をすることを勧められた
- 自費の手術を勧められた
手術が必要な下肢静脈瘤とは、①静脈弁の逆流があり、②静脈の太さが一定以上あり、③症状がある場合だと明記されています。弁に異常がないのに、単に血管が太いから手術が必要になることはありません。

Photo: Felicity Tai / Pexels
「血栓が飛ぶ」という説明について
ここは情報が食い違うところなので、両方を書いておきます。
日本静脈学会は、患者向けに明確にこう述べています。「下肢静脈瘤は浅いところにある静脈の病気なので、エコノミークラス症候群とは直接の関係はありません。エコノミークラス症候群を予防するために下肢静脈瘤を手術することはありません。」
一方、海外の医学リファレンス(StatPearls)は、静脈瘤があるとDVTリスクが対照の5.3倍という報告があるとしています。ただし同じ資料が「深部静脈系と違い、表在静脈の血栓が塞栓を起こすことはまれ」とも明記しています。
統計上の関連(併存)は報告がある。しかし「静脈瘤の血栓が飛んで肺に詰まる」という説明のしかたは別問題で、日本静脈学会はそれをセカンドオピニオンのサインに挙げている。相関と因果を分けて受け取るのが、いちばん誠実な読み方だと思います。
そして最後に、パンフレットのこの一文も添えておきます。「不適切治療を行っているのはごく一部の医師や医療機関で、多くの医師は真剣に患者さんのために下肢静脈瘤の治療を行っています。」 医療不信を持ち帰る話ではないのです。
なお、診察には誰かに同行してもらい、その場で手術を決めないこと。疑問があればかかりつけ医や血管外科・心臓血管外科に相談すること。学会はそう勧めています。
[内部リンク: 関連記事 – 立ち仕事の脚のむくみと生活の工夫]
⚠ 受診の目安と、危険なサイン
最後に、切り分けを整理します。これは診断ではなく、受診の目安です。
救急・すぐに医療機関へ
- 片脚だけが急に腫れる・痛む・熱感がある・赤黒く変色する → 深部静脈血栓症(DVT)の疑い。すぐに受診してください。
- 息切れ・呼吸困難・胸痛(特に片脚の腫れに続いて起きたとき) → 肺血栓塞栓症の疑い。重症の場合は心停止に至ることもあります。ためらわず119番を。
- 静脈瘤からの出血。
早めに専門医(血管外科・心臓血管外科・皮膚科)へ
- 色素沈着(皮膚が黒ずむ)、うっ滞性湿疹、脂肪皮膚硬化症(皮下脂肪が硬く厚くなる)。特に脂肪皮膚硬化症では皮膚潰瘍の危険が高まります。
- うっ滞性潰瘍。静脈性潰瘍は治りにくく、いったん治っても再発が少なくありません。
- 足が腫れて赤くなり痛い。蜂窩織炎や表在静脈の血栓性静脈炎と間違われやすく、自己判断はできません。
- むくみが強く、赤く腫れ、硬く触れる部位がある。
圧迫を始める前に、動脈の評価が必要なサイン
- 足が冷たい/足の脈が触れにくい/歩くとふくらはぎが痛み休むと治る/糖尿病・慢性腎不全がある/足に傷や潰瘍がある。
このどれかに当てはまるなら、弾性ストッキングより先に、動脈の評価です。 順番を間違えないでください。


Photo: 小雨 赛赛 / Pexels
ひとつ、安心材料も書いておきます。
下肢静脈瘤は良性の疾患です。歩けなくなったり、足を切断したり、死んだりする病気ではありません。日本静脈学会も「手遅れになることはない」と明記しています。焦って結論を出す必要はないのです。
私がこの記事を書きながら何度も戻ってきたのは、結局この一行でした。「症状がでた原因が静脈瘤でない方は、手術をしても症状は良くなりません。」
夜ごとに足がつって目が覚める。その苦しさは本物です。ただ、原因を先回りして決めてしまうと、効かない対処に時間とお金を使うことになる。まず超音波で確かめる。ストッキングは、脚の動脈を確認してから、サイズと圧を測って選ぶ。
遠回りに見えて、たぶんこれがいちばん短い道なんですね。壊れた弁は生活習慣では戻りませんが、確かめないまま過ごす夜だけは、今日から減らせますから。
参考にした情報源
- 日本静脈学会『静脈疾患における圧迫療法ガイドライン2024』(パブリックコメント用原稿)
- 日本静脈学会『下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン2019』
- 日本静脈学会 患者向けパンフレット「あなたにその手術、本当に必要ですか?」(2020年11月)
- 日本皮膚科学会『下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン(第3版)』(日皮会誌 2024)
- 日本血管外科学会「下肢静脈瘤って?」「深部静脈血栓症って?」
- 国立循環器病研究センター「下肢静脈瘤」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「レストレスレッグス症候群」
- 済生会「間欠性跛行とは」
- Allen RE, Kirby KA. “Nocturnal Leg Cramps.” Am Fam Physician. 2012;86(4):350-355
- Cochrane Database Syst Rev. 2021;7(7):CD008819(弾性ストッキングによる下肢静脈瘤の初期治療)
- Ergonomics. 2012;55(2):133-139(長時間立位と静脈瘤・夜間こむら返り)
- StatPearls (NCBI Bookshelf) “Varicose Veins”
