高齢者うつの見逃しやすいサイン——仮性認知症と認知症の見分け

高齢者うつの見逃しやすいサイン——仮性認知症と認知症の見分け

親が「面倒くさい」と言い出したら——それは単なる老化ではないかもしれません

正直に打ち明けますと、私は最初、母のその言葉を聞き流していました。

「もう、なんだか面倒くさくてね」

電話越しの、いつもの口ぐせだと思っていたのです。年を取れば、億劫になることも増える。誰でもそうですから。

でも、あとから振り返ると——あれは「サイン」だったのかもしれないんですね。

高齢の親が急に無気力になり、好きだったことをやめてしまう。そんなとき、私たちはつい「歳のせい」で片づけてしまいます。けれど、その裏に高齢者うつ(老人性うつ)が隠れていることがあります。しかもこのうつは、認知症とよく似た形で現れることがあって、見分けが難しいんです。

この記事では、家族が気づける見逃しやすいサインと、「仮性認知症」と認知症の見分け方、そして私たちにできる支援と相談先を、できるだけ落ち着いてお話しします。

窓辺でぼんやりと過ごす高齢者、以前楽しんだことから遠ざかる意欲低下のサインを表すイメージ

Photo: MART PRODUCTION / Pexels


「面倒くさい」が、なぜ見逃されるのか

高齢者のうつ病は、いわゆる「症状がそろっていないうつ病」の頻度が高いと言われています。

つまり、悲しみや落ち込みをはっきり訴えることが少ないんですね。

代わりに前面に出てくるのは、意欲や集中力の低下、記憶力の衰え、そして疲労感・めまい・不眠・食欲低下・痛みといった身体の不調です。だから、本人も家族も「気分の病気」だとは思わず、「ただ弱ってきただけ」と受け止めてしまう。

ここに、見逃しの落とし穴があります。

さらにやっかいなのが、うつのせいで注意力や判断力、記憶力が落ちて、まるで認知症のように見えてしまう状態です。これを「仮性認知症(うつ病性仮性認知症)」と呼びます。実際、「認知症を疑って受診する人の5人に1人は老年期うつ病だった」とも言われます。

ただ、この「5人に1人」という数字は臨床現場でのおおよその目安で、母集団や基準によって差が出ます。正確な割合は決めつけないほうがいいと、私は思っています。


高齢者うつは、どんなサインで現れるのか

厚生労働省「こころの耳」などが、家族が見守るべきサインを挙げています。私が調べた範囲で整理すると、次のようなものでした。

  • 体重減少・食欲低下 — 食欲がなく、短期間で体重が落ちる。
  • 睡眠の変化 — 眠れない、あるいは逆に寝すぎてしまう。
  • 繰り返す受診・身体症状の訴え — 検査ではっきりした異常が出ないのに、頭痛・肩こり・めまい・便秘や下痢・動悸・痛みなどを何度も訴える。
  • 興味・意欲の低下 — 以前楽しめたことをやめる。「面倒くさい」と口にする。疲れやすく、身体がだるい。
  • その他の「いつもと違う」 — 表情が暗い、口数が減った、ため息が増えた、涙もろい、反応が遅い、お酒の量が増えた、失敗が増えた。

ここで、ひとつ気をつけたいことがあるんですね。

食欲・体重も、睡眠も、「減る・増える」「不眠・過眠」の両方向に振れうるということです。「うつなら必ず食べられなくなる」「必ず眠れなくなる」と決めつけると、かえってサインを見落とします。減っても増えても、「いつもと違う」なら気に留める。それが大切だと思います。

高齢者うつの見逃しやすいサインを示すチェックリスト風インフォグラフィック

どのくらい続いたら気にかければいいのか

ひとつの目安として、こうした「いつも」と違う面が 10日〜2週間以上続くとき。厚労省「こころの耳」は、それをこころの不調のサインかもしれない、と伝えています。

一日二日の不調は、誰にでもあります。

でも、二週間。それが続くなら——「歳のせい」で終わらせずに、一度立ち止まってほしいんです。

不調が10日から2週間以上続くと注意という目安を示すカレンダーのイラスト


仮性認知症と認知症は、どう見分けるのか

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。

なぜなら、仮性認知症は認知症と違い、うつの治療で回復し得るからです(脳画像でも異常が出ないことが多い)。逆に放置すると、自殺リスクや、のちの認知症リスクが高まるとも言われます。だからこそ「どちらなのか」を専門家につなぐ入り口として、家族が手がかりを知っておく意味があるんですね。

パークサイド日比谷クリニックやあずみ苑の医療監修コラムをもとに、見分けの要点を表にまとめました。

仮性認知症と認知症の見分け方を発症経過やもの忘れの自覚などで比較した表インフォグラフィック

項目 認知症(例:アルツハイマー型) 高齢者うつ(仮性認知症)
初期症状 性格変化・記憶障害 身体的不調・抑うつ
発症・経過 きっかけなく徐々に進行、いつからか不明瞭 何らかのきっかけで比較的はっきり発症
もの忘れの自覚 自覚が乏しく、取り繕おうとする 自覚が強く、もの忘れを強調・訴える
質問への態度 答えようと努力し、作話することもある すぐ「わからない」と投げやりに答える
妄想の種類 もの盗られ妄想 心気・罪業・貧困妄想
日内変動 なし あり(朝に悪く、夕方に改善など)
脳画像 異常が見つかることが多い 異変が見られない

いくつか補足させてください。

仮性認知症では、時間・場所などの見当識は保たれていることが多いと言われます。一方の認知症は、気分の落ち込みよりも、徘徊や暴言といった活動的な症状が増えていく傾向があります。

ただ——ここは正直にお伝えしますが、この見分けは、あくまで「気づきの手がかり」にすぎません。

うつの症状は、身体の病気や薬の副作用、大切な人との死別後の反応、初期の認知症とも重なりやすいものです。本当の鑑別ができるのは専門家だけです。家族が表を見て「これはうつだ」と自己判断するためのものではないんですね。

もうひとつ。仮性認知症としていったん回復しても、うつを伴った高齢者は将来の認知症リスクが高いとされ、経過観察と専門相談が欠かせません。「治ったから、もう大丈夫」ではないのです。


「死にたい」と言われたら——見過ごさないでください

これは、どうしても書いておきたいことです。

適切な治療がないと、絶望感から自殺に至るリスクが高まります。高齢者のうつは、自殺の背景要因として重要だと指摘されています。

もし、親が「死にたい」「生きていても仕方ない」といった言葉を口にしたら。

決して聞き流さないでください。

「そんなこと言わないで」と否定したり、話題を変えたりするのではなく、まずは気持ちを受け止めながら、すぐに専門家や相談窓口へつなぐ。厚生労働省の「まもろうよ こころ」には、電話やSNSの相談窓口の一覧が載っています。ためらう必要はありません。危険が差し迫っていると感じたら、救急につなぐことも選択肢です。


家族にできること、そして相談できる場所

では、私たちに何ができるのか。調べていて、少し救われた気持ちになった点でもあります。

責めず、急かさず、まず聴く

「頑張って」と励ましすぎないこと。これが、意外と難しいんですね。

よかれと思った励ましが、本人には「これ以上どう頑張れというのか」と重荷になることがあります。だから、まずは話を十分に聴く。気持ちを受け止める。そのうえで、受診をやさしく勧める。順番が大事なんだと思います。

一緒に、日の光を浴びる

人との交流を保つこと、適度な運動、日光浴、バランスの良い食事。こうした生活の支えが、予防や回復に役立つと言われます。

大げさなことでなくていいんです。「散歩に行こうか」と、一緒に外に出る。それだけでも。

高齢の親と一緒に日光を浴びながら散歩する家族、うつの予防と回復を支える生活支援のイメージ

Photo: JR Bradbury / Pexels

相談できる場所を知っておく

家族の「気づき」が、対応の鍵になります。受診に付き添い、治療を続けられるよう支える。その手前で、相談先を知っておくと心強いです。

  • 精神科・心療内科 — うつが疑われるときの、専門家の診察・相談窓口。
  • 精神保健福祉センター — 各都道府県・政令指定都市に1か所ずつあり、こころの健康、精神科医療、認知症高齢者の相談などに、電話や面接で応じてくれます。
  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」 — 電話・SNSの相談窓口の一覧。「死にたい」という気持ちがあるときにも。
  • 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 — 情報や相談先を案内してくれます。

治療には、精神療法や薬物療法、環境の調整、光線療法などがあると言われます。うつの背景には、近親者・配偶者との死別、退職による社会的役割の喪失、健康状態の悪化といった要因が重なることも多いようです。

相談窓口の情報をスマートフォンで確認する家族の手元、専門家相談につなぐイメージ

Photo: Jakub Zerdzicki / Pexels

関連して、もあわせて読んでいただけると、見分けの助けになるかもしれません。


医療に関するお願い(免責)
この記事は情報提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。高齢者うつや仮性認知症が疑われる場合は、必ず精神科・心療内科など専門家の診察・相談を受けてください。自傷のおそれがあるときは、ためらわず相談窓口(「まもろうよ こころ」、精神保健福祉センター等)や救急につないでください。


あの日、電話越しの「面倒くさくてね」を、私はうまく受け止められませんでした。

もし、あのときもう少し早く気づいていたら——と思うことがあります。

でも、後悔よりも大事なのは、たぶんこれからなんですね。「歳のせい」の一言で親を遠ざけてしまう前に、その裏にある小さなサインに、耳を澄ませてみる。見分けるのは専門家の仕事でも、気づいて隣に座ることは、家族にしかできないことですから。


参考資料

  • 厚生労働省「まもろうよ こころ」(相談窓口) — https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
  • 厚生労働省「こころの耳」ご家族の方へ — https://kokoro.mhlw.go.jp/family/
  • 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」 — https://kokoro.ncnp.go.jp/support_consult.php
  • パークサイド日比谷クリニック「仮性認知症(うつ病性仮性認知症)の症状と治療方法」 — https://www.parkside-hibiya.com/column/false_dementia.html
  • よしざわクリニック三鷹「老年期うつ病」 — https://yoshizawa-cl.com/senile-depression
  • あずみ苑(医療監修コラム)「ご高齢者のうつ病とは?認知症との見分け方と予防・治療法」 — https://www.azumien.jp/contents/industry/00033.html

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